中心部に赤みを残した「レアハンバーグ」や、客自身が焼き石や鉄板で仕上げる提供方法が、SNSを中心に注目を集めている。しかし、ひき肉は表面に付着した食中毒菌が内部まで混ざり込む可能性があり、ステーキなどの塊肉とはリスクが全く異なる。とりわけ、気温と湿度が上がる梅雨から夏にかけては細菌が増殖しやすく、保存や加熱が不十分な肉料理には一層の注意が必要だ。
食の楽しみを安心して味わうためには、見た目や話題性だけでなく、安全性への正しい理解が欠かせない。実際にレアハンバーグを扱う店と食品衛生の専門家に、レアハンバーグを提供する難しさについて話を聞いた。
人気メニューが一転して“炎上”
2024年12月、東京・吉祥寺のハンバーグ専門店「吉祥寺バーグ」が提供していた「裏の吉祥寺ハンバーグ」が、SNS上で議論を呼んだ。
中心部に赤みを残したハンバーグの動画が拡散され、「レアというより生ではないか」「食べても大丈夫なのか」といった声が相次いだのだ。
同店は2018年5月に開店。2020年ごろから提供していた「裏の吉祥寺ハンバーグ」は、グルメ系インフルエンサーの投稿などをきっかけに人気を集め、定番商品と並ぶ看板メニューになっていた。
店主の斉藤三秀さん(55)は、当時使用していた肉についてこう話す。
「ステーキ用に使われる北海道産の肩ロースのブロックを、長年付き合いのある業者にミンチにしてもらい、すぐに真空状態にしていました。品質や鮮度には自信がありましたし、可能な限りおいしいものを食べてもらいたいという思いがありました」
しかし、SNSでの拡散を受けて多摩府中保健所が立ち入り、店舗に対して提供方法を指導。同店は同年12月10日に「裏の吉祥寺ハンバーグ」の販売を中止した。
斉藤さんは当時を振り返る。
「国のきまりで、ひき肉は75度で1分以上加熱しなければならないことが定められているので、違反だったんですよね。道路を80キロで走って事故がなかったからOK、という話ではないじゃないですか。ダメなものはダメなんですよね。
これまで食中毒や体調不良の報告はありませんでしたが、炎上後は『まだ殺人ハンバーグはあるんですか』というイタズラ電話もあり、影響は1年ほど続きました」(同)
これまで食中毒者が出ていないから「大丈夫」なわけではない。同店では保健所からの指導を真摯に受け止め「裏の吉祥寺ハンバーグ」の提供すでに中止している。
「レア」に見えても別物、法令に基づく非加熱食肉製品
法令に基づく加工と管理によって、中心部が赤いハンバーグを実現している店もある。
千葉県印西市の「焼肉京城苑 千葉ニュータウン店」では、同店限定で、加熱せずに食べられる「レアハンバーグ」を販売している。
同店を運営する有限会社松山商事の専務・菰岡翼さん(40)は、その製造工程についてこう説明する。
「うちのレアハンバーグは、新鮮な生肉をミンチにして、そのまま出しているわけではありません。プロシュートや生ハムなどと同じ、食品衛生法上の『非加熱食肉製品』を提供しています。
必要な設備や基準を満たした専門業者に製造を委託しているため、店舗の厨房で加工しているものではありません。
食肉製品の製造施設では、専門的な知識を持つ『食品衛生管理者』を置くことが法律で義務づけられていて、施設や製造工程、温度・衛生管理、検査にも厳しい基準があります。
よく勘違いされるのですが、一般の飲食店が厨房で肉を加工し、自分たちの判断で『非加熱食肉製品です』と言えるようなものではなく、製造のハードルはかなり高いです」
菰岡さんによると、同店では商品化にあたり、加工方法や提供方法について事前に保健所へ相談したという。
一方、生のひき肉を客自身に焼かせる提供方法には、強い懸念を示す。
「かなり危険だと思います。ひき肉は、肉の表面に付着していた菌が、ミンチにする過程で内部まで混ざり込む可能性がありますから、表面だけを焼けば大丈夫というものではありません。
『新鮮な肉だから安全』ということでもないんです。と畜や解体の段階で菌が付着する可能性がありますし、新鮮な肉ほど、付着している菌も新鮮です。
これまで問題が起きていない店舗でもそれは大丈夫なのではなく、たまたま事故が起きていないだけという可能性もあります。
肉そのものの安全性や加熱方法を店側で管理できていなければ、正直、運任せに近いと思います」(同)

