予防線という鎧
その日も、向かいに座った相手にひとしきり自分の話をしました。相手が感心してくれるほど、自分が優位に立てている気がして安心できたのです。会話が途切れかけたところで、俺はいつものように切り出しました。「他にも会ってる子いるから」。
本当に何人もと会っているわけではありません。ただ、先に予防線を張っておけば、本気になって傷つくのは自分じゃない。そう信じ込んでいただけでした。
隣に座った元恋人
相手が何か言いかけたとき、隣のテーブルに見覚えのある人が腰かけました。少し前まで付き合っていた人です。別れ際に「あなたは誰にも本気にならないね」と言い残して去っていった人でした。
連れと笑い合う彼女は、こちらにまったく気づきません。俺だけが、その横顔から視線をそらせずにいました。もう乗り越えたつもりでいたのに、こんなにも動揺している。手にしていたはずの余裕が、音もなくこぼれ落ちていくのがわかりました。
