医療費が高額になった場合、自己負担額を一定に抑える「高額療養費制度」。その「見直し」案をめぐり、患者団体が専門委員会に参加したにもかかわらず、政府は「議論した」という既成事実だけを盾に批判をかわし続け、今年の8月からは実際に負担額が増えることになった。
有権者はこうした「聞いたふり」をする政治に対して、どのように異議を申し立てればよいのか。選挙期間外に声を届ける具体的な方法とその限界に迫る。
※2026年4月22日、Readin’ Writin’ BOOKSTOREにて行われたイベントの一部を採録したものです。
有権者は政治家に対して、どう異議申し立てすればよいのか?
西村 去年3月の一時凍結後に、当事者の声をあまりにも聞いてなさすぎた反省を経て、厚生労働省の社会保障審議会医療保険部会の下に「高額療養費制度の在り方に関する専門委員会」が作られて、全がん連とJPAの代表がそこに加わって議論が進んでいきました。
当事者を参画させるという最初のハードルは超えたのですが、じつはその次に、当事者が入ったことで「話を聞きましたよ」という体で議論が進められてしまう、というトラップが待っていました。
畠山 アリバイ的に使われてしまう。
西村 そうです。今回〈見直し〉案の月額上限額引き上げがまさにそうなんですけれども、国会答弁で上野(賢一郎)厚労相や高市首相は常に「ご議論いただいた」と言うわけです。専門委員会に参加していた全がん連やJPAの代表者が、国会の参考人や公述人として「議論は充分なものではなかった」「新たな自己負担上限額はあくまで金額を提示されただけ」と発言しても、高市首相や上野厚労相はまるで錦の御旗のように「専門委員会でご議論いただきました」と平然と言うわけです。
畠山 出席していただけなのに。
西村 非常にずるいですよね。高額療養費の「高額」さに苦しんでいる制度利用者は現状でも非常に多いので、全がん連とJPAの代表者が専門委員会で懸命に訴えた結果、1年の総支払い額に限度を設ける年間上限額の新設や、長期利用者の1ヶ月あたり支払い額をさらに低くする多数回該当という制度の金額を据え置きにすることが、今回の〈見直し〉案には盛り込まれています。これは確かに前進ではあるんですよ。
だけどそれはそれとして、1ヶ月あたりの支払い上限額をさらに上げているから、現行制度よりも負担が増えて苦しくなる人がたくさん出てくることが今の問題なんです。にもかかわらず、高市首相や上野厚労相は国会で何を質問されても「当事者団体も参画した専門委員会でご議論いただきました。年間上限を導入して多数回該当も据え置きにします。だから充分な配慮をしています」ということばかり言うんです。
1ヶ月あたりの自己負担上限引き上げなど様々な問題を野党議員が指摘しても、そこに対する答えは「繰り返しになりますが、患者団体の方も参画した専門委員会でご議論いただき、年間上限額の新設や多数回該当の据え置きで充分な配慮した案になっています」と同じことばかり繰り返すわけです。
畠山 見栄えの良い部分だけを言って、「ここの見栄えをよくしたからいいでしょう」と押し切ろうとしているわけですね。
西村 そういうことですね。あまりに同じことばかり繰り返すから、次に同じ答弁をしたら床が開いて下に落ちるとか上から水が降ってくるとか、そんなふうになればいいのにと思いながら見ていました。
畠山 それだと兵庫県庁なんかも大変なことになっちゃうと思いますけど(笑)。
西村 そのように聞く耳を持たない政権側の態度に対して、いったいどんな異議申し立てができるのだろうか、と考えると非常に歯がゆいし虚しいですね。先ほどの話にあった、選挙の候補者に直接声をかける方法は非常に有効だと思うんですが、選挙期間ではない時期にたとえば自分の地元選挙区の議員に話しかけたとして、どれほど効果があるのだろう、どれくらい話を聞いてくれるものなんでしょう?
畠山 それは本当に人と事務所によると思いますね。その政治家に直接連絡を取れる関係性があれば、多分ものすごく話が早いと思うんですけれども。
西村 それだと誰も苦労はしない。
畠山 そうなんですよね。だからそこで、自分が住んでいる選挙区から選出されている国会議員は誰なんだろうということをまず思い出してもらって、その事務所に「こういうテーマについてぜひ考えてもらいたいから、話を聞いてもらえませんか」というアプローチを事務所にしてみる。その時に反応が良くて、「本人はいないけど秘書が聞きます」ということもあるでしょうし、「資料にしてまとめて持ってきていただければ本人に渡します」という対応もあるかもしれない。
そうやってまず連絡を取ってみることで、有権者の訴えかけにアンテナを張っている議員かどうかということが、最初の反応でわかるわけですよね。実際には「いや、うちはそういうことはやっていないから」という議員もいらっしゃるので、そういう場合は「この人は自分たちの力になってくれないんだな」という判断を次の投票行動で示せばいい。
実際には、地元議員に連絡をしている有権者ってほとんどいないんですよ。選挙で投票先を決める場合でも、「本人を見てから投票していますか?」と聞くと、見てから投票したという人は2割もいないくらい、圧倒的に本人を見ていないんです。だから僕は、政治家に話しかけるハードルを下げたいと思っていろんな人に話しかけているんですけれども、塩対応のところもあれば、あたたかい対応をしてくれるところもある。
本当に面白いですよ。選挙に当選するまで「あなたの話を聞きます」と言っていた人が、当選した途端に「いや、うちはそういう取材対応とかやってないから」と断る人もいる。もうあからさまに人間の素が出るんですよ。声をかけて門前払いをくらったときには、「この人は有権者と話す気がないから、次は絶対投票しないぞ」と確信を持つ判断材料にもなるので、気軽に声をかけて、その反応を自分の投票行動に生かしてほしいですね。
高市首相にも本を送っている
西村 そういったいろんなことが『選挙漫遊記』には詰まっていますよね。そういう活動は、自分が当事者として投票する選挙でもしているんですか?
畠山 しました。僕は東京8区ですが、先日の衆議院選挙では立候補全員に会って話を聞いています。3年前の杉並区議会議員選挙では、定数48に69人が立候補したんですが、そのときも全員会いました。
西村 69人に。
畠山 会いました。地方議会選挙だと政党って本当に関係ないな、ということがわかってすごく面白かったですね。自民党から候補者がたくさん立候補していたんですが、本当に幅広くて、中には社民党の政策と言ってもわからないんじゃないか、という人もいる。じつに幅広い人たちが立候補していて、声をかけてみるとすごく熱心に話を聞こうとしてくれる人もいれば、「いや、取材は受けないから」と言って逃げる人もいる。
西村 有権者に対して? 選挙期間中に?
畠山 だから「この候補者には絶対に入れないぞ」と思う人にも出会えるんですよ。
西村 それはつまり、自分は絶対に当選する自信があるからこんな有権者は相手にしない、ということ?
畠山 そうです。応援してくれる人数があらかじめわかっていて当選する絶対的な自信があるから、知らない有権者は相手にしない。公職に就こうとしている者としてその姿勢はどうなのか、とものすごく感じるんですが、そういう人は実際にいます。でも、それを許しているのは有権者なので、応援している人に対しても厳しく、「お前は公の立場に立つんだから、いろんな人の話を聞かなきゃダメだよ」と支援者が候補者を叱咤激励して、どこに出しても恥ずかしくない候補者に育てなきゃダメですよ、ということをもっと伝えていかなければいけないなと思っています。
西村 畠山さんがいつも言っている「がんばろう有権者」というフレーズには、そういう意味もあるんですよね。
畠山 そうです。有権者が怠けているから、定数削減されてもしようがないと思われてしまう。日本は有権者に対する議員の数はむしろかなり少ないし、どこに出しても恥ずかしくない人を有権者が政治家にしていたら、定数削減に賛成する有権者はそんなにいないと思うんですよ。でも、現状でそうなっていないのは、やはり有権者がもうちょっと頑張らないといけない、ということですね。
西村 立候補者と選挙事務所の話で思い出したんですが、2月の衆議院選挙の時に、うちの選挙区は自民党の候補が当選しました。今回で2期目の若手議員で、その人は高額療養費の超党派議連にも参加しているんですね。なぜそれを知っているのかというと、たまたま議連の取材で参議院議員会館の会議室にいて後ろの記者席から見ていたときに、その人が手を挙げて「地元の有権者の方々から、保険者が変わると多数回該当がリセットされる問題に早く対応してほしいという声をいただいていますので、議連としても対応をお願いします」と発言していたからなんですよ。
うちの地元選出の自民党議員が野党議員の多い超党派議連に参加して有権者の声を届けている、ということが印象に残っていました。その人が当選したので、この人は今国会で自民党の予算案に賛成する1票になるのだろうと思ったけれども、しようがないと諦めるのも癪だから、その議員のメールアドレス宛に、高額療養費制度〈見直し〉案に対する自分の意見を何度か書いて送ったんですよ。
書きながら「どうせ読まれねえだろうな」と思っていたんだけど。すると、衆議院で高額療養費の議論が始まったときに、その議員から電話がかかってきました。「党の立場はこうで自分はこう考えていて、A議員やB議員とこんなふうに話をしている」等々、こちらから送ったメールに対する意見に対して一所懸命説明してくれるので、こちらも電話をくださったことにお礼を言ったうえで「でもやはり、自分は政府案に承服できないし、引き上げ幅も充分な検討が行われたと思いません」ということを15~20分くらい電話で話しました。地元の有権者の声にちゃんと反応して連絡をくれる国会議員もいるんだな、というのは新鮮な驚きでした。
畠山 そうですよ。打てば響くんですよ、わりと。そういうところが、当選する人の強さでもあるんでしょうね。
西村 支持者からの応援ではないのに、考えが違う有権者からの「自分は賛成できない」という意見に対してもちゃんと向き合おうとする姿勢は誠実だなと思いました。
畠山 しかもその議員は西村さんの前にも地元有権者の意見をちゃんと吸いあげて、議連で要望を伝えているわけだから、やはり声を届ける意味はあるんですよ。
西村 その議員には、この本を編集部から議員会館の事務所宛に送ってもらいました。自民党では他に、高市首相と上野厚労相、石破前首相と福岡前厚労相宛にも編集部から送ってもらっています。はたして本人たちが読んでいるかどうかわからないけれども、事務所には届いていると思います。
畠山 持っていったらどうですか、自分で。あるいは、「お読みいただけましたか」と手紙を書くとか(笑)。

