最新エンタメ情報が満載! Merkystyle マーキースタイル
遠藤憲一 & 井川遥 インタビュー “家族の再生”──再開発の渋谷を舞台に描く『見はらし世代』

遠藤憲一 & 井川遥 インタビュー “家族の再生”──再開発の渋谷を舞台に描く『見はらし世代』

26歳、長編映画デビュー作にして世界三大映画祭のひとつ、今年のカンヌ国際映画祭・監督週間に選出された作品がある。それが団塚唯我監督の『見はらし世代』だ。監督自身の家族との思いがヒリヒリとした感情と共に幻想的な映像として映し出された本作は、世界の映画人から称賛を浴びた。舞台は再開発が進む渋谷、ある出来事をきっかけにもう一度、家族と向き合うことを決めた青年が見た光景とはなんだったのか‥‥。

主人公【高野蓮】を演じるのはNHK連続テレビ小説「ブギウギ」(2023)や『さよなら ほやマン』(2023)の黒崎煌代。疎遠になっていたランドスケープデザイナーの父親には遠藤憲一が扮し、亡くなった母親には井川遥、蓮の姉には木竜麻生といった顔ぶれが揃った。

今回は、蓮の両親を演じた遠藤憲一さんと井川遥さんに若き才能について、映画から見る夫婦の姿についてお話を伺います。

――団塚監督にとって本作は長編初監督作品となります。それで「遠藤さんには絶対、出演して欲しい」という話をされていたのを聞いていました。お二人がこの映画の企画に参加しようと思われた理由を教えて下さい。

遠藤 本 (脚本) を読んだ時も不思議な印象でしたが、彼がその前にndjc (New Directions in Japanese Cinema) 文化庁の委託事業である若手映画作家育成プロジェクト)で発表した短編「遠くへいきたいわ」を見せてもらったんです。それを見たらすぐに力があることが分かったんです。それが一番最初だったかな。

――エッジが効いていてアート性が強い作品でしたね。監督の才能を評価したということですよね。

井川 私は今回の脚本を読んで参加したいと思ったんですが、台詞は最小限で言葉に頼っていないというか。それでいてそれぞれの立場、家族ひとりひとりの思いがよく伝わってきて。ランドスケープという時代の流れを感じる景色と、人の思いとか成長とか普遍的なものを1つの世界の中で描いていて新しい感じがしたんです。

監督にお会いした時、まっすぐでいてとてもシャイで。25歳 (当時) だと知って、なんて大人っぽいんだろう、“本当に?”って驚きました。

遠藤 彼は何かを持っているよね。変なものを。いい意味で。

――監督ご自身のご家族が少し投影されていますよね。そこら辺の話を監督とされたりもしたのですか。

井川 私は監督のご家族が以前取材を受けられたときの映像を見せて頂いたり、少し質問もさせてもらいました。

遠藤 そうなんだ。

井川 私自身子育て中なのでお母さんの気持ちがよくわかるんですよね。ひとりの女性が母親として変化をずっと受けとめていかなければならない責任や不安、抱えてしまう孤独があると思うんで。喧嘩をするシーンだって、昔働いていた時の話までされて「それは水掛け論じゃないか」と言われたりする。そういう辛さや葛藤は私自身の経験を通してできるのではないかと。

――それでも難しい役だったと思います。

井川 そうですね。前半はとても辛かったです。でもそれだけではなくて、後半で再会する時、もうわだかまりはなくなって、肉体は消えてしまったけれど魂は成長し続けていたんじゃないかと思ったんです。映画『ゴースト/ニューヨークの幻』(1990) ではないけれども、少しロマンティックで切ない再会であり。“そうあって欲しい”という家族ならではの監督の想いが投影されているのではないか?と感じたりもしました。

――後半の家族のシーンが象徴的というか、そこから井川さん演じるお母さんと遠藤さん演じるお父さんの関係がやっと見えてくるところからずっと見惚れていました。

井川 パリンッて登場するところですかね?

遠藤 あれ、ヒョコッて感じで、ひょうひょうと出て来るところがまた凄いんだよね。

井川 みんながガラスを拾っているところに私は私の時空というか、ちょっと不思議なシーンですよね。あの日の撮影は朝まで通しでしたよね。

遠藤 あのシーンは2日間にわたって撮影したんだっけ?確かそうだった気がするなぁ。息子【高野蓮】を演じる黒崎くんが、俺の顔を見ると笑うようになっちゃって大変だったのよ (笑) 。

井川 遠藤さんはその前の家族での撮影シーンでも物凄くカレーを食べていて、完食する程の食べっぷりを見せていたんです。そうそう、リハの時から全部食べていたんですよね(笑)。

遠藤 だから、何年かぶりに会ったシーンでは凄く食べるのを抑えました。本当に食べ過ぎちゃってお腹がもういっぱいでね(笑)。

井川 でもその後、スイカも食べていらっしゃって‥‥。

遠藤 スイカはね。黒崎くんも食べ過ぎていたよ (笑) 。

――家族のスタイルを凄く考えさせられる映画だと思いました。それでいて監督のセンスが随所に光っているというか。

遠藤 そうそう、台詞も独特でいいんだよね。井川さんの台詞も凄くハマっていて、僕は好きなんだよね。

井川 私が演じるお母さん【高野由美子】は、ちょっと危うい感じがしますよね。

――そうなんですよね。それに気づけない、【高野初】のようなお父さんって居ますよね。

遠藤 俺の女房に言わせると、俺にもああいう所があるそうです。目の前のことでいっぱいいっぱいで、視野が狭くなってしまう。周りが見えなくなって、何となく迷惑をかけてしまう。男の人には、そうなりがちな人が結構居るかもしれません。「何がいけないの?」って、言われてもわからない人がね。

井川 わかります。気にしている部分が全然違うから。

――「一緒に居ればもう安心」という関係ですよね。

遠藤 そうかもしれないね。「何?これ以上、何が不服なの?」という思いがあるんだろうね。素の俺はこの映画の男と違って、もう少し分かるようにやって来たけどね。怒られても、怒られても(笑)。

――遠藤さんは作品 (ドラマや映画) を、奥様と一緒に観るようにされているとお聞きしていますが、今回も一緒にご覧になったのですか。

遠藤 毎日ではありませんが、その時間が唯一、一緒に居られる時間なので。この作品に関しては別々に観たんですけど、女房は凄く気に入ってました。

井川 本当ですか。嬉しいですね。

――遠藤さんのいつもとは違う一面が見られる役だったので、新鮮でした。今回の映画は、監督はもちろんですが、息子役の黒崎さんも素晴らしかったですよね。監督と阿吽の呼吸みたいなものが画から見えてきて、凄い俳優さんだと思っていました。共演していかがでしたか。

遠藤 凄いよね。俺はこの作品の前に『さよなら ほやマン』を観ていて、あの役で黒崎くんはずっとヘラヘラ笑っていたから、本人もそういう人なのではないか?と思っていたんです。それで今回「『さよなら ほやマン』の人だ」と聞いて、アキラ役で出演している「MOROHA」のMCアフロさんが出て来るんだと思っていたんです。そしたら黒崎くんだったので驚いたんですよ。全然ヘラヘラしてなくて、普段もまったく違う。えぇ?!『さよなら ほやマン』の演技は全部芝居だったの?とビックリして。彼は本当に演技が上手いですよ。

井川 本当に監督と似ているというか、体内で流れているものが同じなんじゃないかと思います。

遠藤 黒崎くんと監督は息が合うんでしょうね。

――なるほど。確かにカンヌ国際映画祭・監督週間で取材した際も兄弟のようでした。ちなみにお二人は、これまで様々な作品に出演されていますが、俳優として現場に立つ上で大事にしていることを教えて下さい。

遠藤 俺はあんまり“俳優としてこうならねばならぬ”というのはありません。ただ、自分が思っていることは「こうしてみない?」「ああしてみない?」と、監督に言うようにしているんです。でも団塚監督の場合は、ちょっと違った。最初のサッカーボールを蹴っているシーンを撮っていた時に、つい俺がノリ過ぎちゃってね。そうしたら監督から「そこまでやっては駄目です」とズドーンと駄目出しをされたんです。それを言われた時、“この監督は削れる人なんだ”と確信しました。そのシーンで「カット」と言った後に、しばらく考えて「奥さんの所に行って下さい」と言うこと自体、監督は鋭いんです。だから今回は、監督に言われるがままにやってみようと思った作品でした。

ただ撮り方が「もう1回、もう1回」と結構、多いんです。「何回させるんだよ、何回やるんだよ」と心の中では思っていましたよ。でも本人には言いづらい空気を纏っているんだよね。普通の若者なのに (笑) 。それでこっそり他のスタッフに「ずっとやるの?」と尋ねたら、「監督に言えないです」とやっぱり言われました (笑) 。

この現場では、皆が良い感じに若い監督に振り回されていましたね。この雰囲気はどこから来ているんだろうと思ったら、監督はただ迷っているのではなく、“そこから先の何かを見つけようとしているのではないか?”と、俺も他のスタッフさんも思っていたんですよ。皆が、彼の才能に惚れているところがあるので、考えている時間の邪魔をしちゃいけないと思っていたんですよね。

井川 私の場合は、何度も同じシーンを撮影する際に、毎カット予定調和になりたくないという思いが凄くあるんです。気持ちが起きる視点みたいなところを“どうしようかな?”と考えながら演じています。上手く言えているかわかりませんが、毎回、何かこう、違うところに着地したいと思うような。

――今回の現場で特に印象に残っていることはありますか。

井川 そういう意味では、そういうことを監督がまったく望まれていないようだったんです。「井川さんの好きなタイミングで」とよくおっしゃっていました。だからじっくり気持ちを作れたし、やりやすかったところがありましたし、一方で言葉ではなく何かしっくりくるものを待っていられているような(笑)。試されているような違う緊張感もありましたね。完成したものを観た時にはまた驚いて。こんな編集になるとはって、凄く斬新でした。

遠藤 斬新。本当に斬新で、俺、作品を観て直ぐに井川さんに連絡しちゃったよね。

井川 はい。

遠藤 まったく想像しなかったような感じで驚いたんだよ。

井川 自分たちが演じていたことなのに。

――この才能が世界に伝わればいいですよね。

遠藤 最初の長編映画でカンヌ国際映画祭の監督週間に選出されて、世界に理解してもらったんだから、次はどんな作品を撮るのか楽しみだよね。

第78回カンヌ国際映画祭に取材へ行った際、インタビューをした団塚唯我監督と黒崎煌代さん。活き活きとした表情で質問に答えた彼らは、カンヌの観客から手応えを感じていたようでした。たくさん話し合い、2人で生み出していった蓮という主人公が見つめる先に居る父と亡き母を演じた遠藤憲一さんと井川遥さん。親との関係、夫婦の姿は、時を経て変化していくのだな、とスクリーンに映し出される再開発が進む渋谷の街からも感じとった作品。画でしっかりとそれぞれの想いを語る新しいアプローチで描かれた家族の物語『見はらし世代』。団塚監督の今後がさらに楽しみになるインタビューでもありました。

取材・文 / 伊藤さとり
撮影 / 奥野和彦

作品情報 映画『見はらし世代』

再開発が進む東京・渋谷で胡蝶蘭の配送運転手として働く青年、蓮。ある日、蓮は配達中に父と数年ぶりに再会する。姉・恵美にそのことを話すが、恵美は一見すると我関せずといった様子で黙々と自分の結婚の準備を進めている。母失って以来、姉弟と父は疎遠になっていたのだ。悶々と日々を過ごしていた蓮だったが、彼はもう一度家族の距離を測り直そうとする。変わりゆく街並みを見つめながら、家族にとって、最後の一夜が始まる。

監督・脚本:団塚唯我

出演:黒崎煌代、遠藤憲一、井川遥、木竜麻生、菊池亜希子、中村蒼、中山慎悟、吉岡睦雄、蘇鈺淳、服部樹咲、石田莉子、荒生凛太郎

配給:シグロ

©2025 シグロ / レプロエンタテインメント

公開中

公式サイト miharashisedai

配信元: otocoto

あなたにおすすめ