
そういうファンの不満もあったのか、2021年に残酷さをキープし本国ではR指定、日本でもR15+となったリブート作『モータルコンバット』が公開された。サイモン・マッコイド監督による本作は興行的にも成果をあげ、続編の『モータルコンバット/ネクストラウンド』も6月6日に日本公開となった。
正直、筆者はゲームに関しての知識はゼロに等しいのだが、それでもこれを大いに楽しんでしまった。最初から最後まで、ほぼ闘っているだけ。体を輪切り状態にしたり真っ二つにしたりと、残虐さも前作よりレベルアップしたような印象。にもかかわらず、楽しめてしまったのは随所にちりばめられた映画ネタ。1作目でも少しはあったが、この2作目は主人公の1人がアクションスターのジョニー・ケイジになったせいもあってなのか、映画ファンならツボを押されたような楽しさがある。
■フェイク予告まで!ジョニー・ケイジの登場で映画小ネタが爆増
カール・アーバンが演じたこのジョニー・ケイジ。前作の最後、ロッカールームの壁に彼が主演した架空のアクション映画『市民ケイジ(Citizen Cage)』のポスターが貼られていたので、その予告を受け継いだ登場になる。当時はキャスティングが決まってなかったせいなのか、下半身しか見せていない。それにしても気になるのはこのタイトル。映画ファン的に連想してしまうのは、本作とはまるで関係ないだろう映画史に残る傑作、オーソン・ウェルズの長編デビュー作『市民ケーン』(41)だったりする。原題は『Citizen Kane』なわけだから、意識してないとは思えない。

彼がコミコン会場のようなブースで出演作のDVD等を売っているシーンでの映画(のポスターデザイン)は、どう見てもブライアン・デ・パルマによる『ミッション:インポッシブル』(96)。しかもそのタイトルは『Uncaged Fury』で、“Fury”こと『フューリー』はデ・パルマの1978年の映画だったりもする。
さらに、ケイジが駐車場で荷物を積み込んでいる時に現れたライデン(浅野忠信)を見て「『ゴースト・ハンターズ』(86)のコスプレか。あれはいい映画だった」というのには大笑い。確かに笠を被ったライデンのいで立ち、ロー・パンの部下だった“嵐の三人組”に似ている…と思っていたら、なんでもゲーム版でのライデンのキャラクターデザイン、インスピレーションを受けたのはこのジョン・カーペンターの映画だったというから、ゲームファンも映画ファンも喜ぶネタになっている。


そして、バーで一人酒を傾けるケイジに気づいた男性が「あんたの『市民ケイジ』好きだったよ」と語りかけてくるとケイジは「(いまのアクションは)鉛筆1本で敵を倒すキアヌ・リーブスのほう(が人気)だ」とグチってみせる。もちろん、この映画はキアヌ主演の「ジョン・ウィック」シリーズのこと。キアヌ扮する最強の殺し屋ジョン・ウィックは「鉛筆で3人を殺した」伝説を持つからだ。また劇中、『Uncaged Fury』のアクションシーンが流れるのだが、製作スタジオの名前が「ニューライン・シネマ」になっている。本作自体、ニューライン・シネマの製作だからだろう。
■カール・アーバンがやっているからこその爆笑!
同じニューライン・シネマのネタでいうと、「ロード・オブ・ザ・リング」系が充実している。このスタジオはピーター・ジャクソンと組んでJ・R・R・トールキンの「指輪物語」を原作通り三部作で作ることを前もって決め、ファンタジー映画のスタンダードを変えてしまったことで知られている。普通なら1作目をまずつくり、それがヒットしたら2作目をつくるというスタイルのところを、最初から3部作を撮影して1年おきに公開し大成功を収めた。ただし、その後にもう1本、フィリップ・プルマン原作の『ライラの冒険 黄金の羅針盤』(07)というファンタジーをつくったが、これは興行的に大失敗。結果、ワーナー・ブラザースに買収されて、傘下のレーベルになった。

さて、その「~リング」ネタでいうならケイジが、今回の争奪戦の標的になっている不死の護符の破壊方法についてカノウ(ジョシュ・ローソン)と言い争うシーン。「裏に説明があるのか」なんていうカノウのジョークにつられ、護符をひっくり返したケイジは「ひとつの指輪ですべてを支配する…」と書かれてもいない文章を朗読する。これには大爆笑だが、演じているのがアーバンというのも無視できない。

彼は「~リング」シリーズの『二つの塔』(02)、『王の帰還』(03)で、ローハン王セオデンの甥エオメルを演じてブレイクしたからだ。結局、この護符はケイジが敵と共に破壊するのだが、その図はちょっと指輪の末路に似てないこともない。『王の帰還』ではフロドは指輪を捨てられず、ゴラムが奪って炎の中に落ちて行くからだ。
同じく「~リング」ネタでいうと、今回も登場したカノウはライデンのことを前作同様「ガンダルフ」と呼んでいる。確かに、世界を救うため“旅の仲間”を集めたガンダルフのようにライデンは、人間界存続のために闘ってくれる戦士を集めるのだがら言いえて妙な呼び方だ。また彼は、白塗りのネクロマンサー(クァン・チー)のことを「ペニーワイズ」と呼んだり「ヴォルデモード」と呼んだり、映画ネタをぶち込んでくる。言うまでもなくペニーワイズは「IT/イット」シリーズの邪悪ピエロで、ヴォルデモードは「ハリー・ポッター」シリーズの“名前を言ってはいけないあの人”のこと。「IT」はニューライン製作でワーナーの配給、「ハリー・ポッター」はワーナー映画だ。白塗りでいうと、ケイジたちが魔界に忍び込む時に出会う凶暴な種族タルカタン族も白塗りなせいか、ノリは「マッドマックス」。これもワーナー作品だ。

■昨今のハリウッド事情まで深読み!?
やはりというか当然というべきか、引用映画のほとんどはワーナー作品とその傘下のニューライン。唯一違っていたのは、両腕がロボット義手になっているジャクソン・ブリックス(メカッド・ブルックス)に対して、字幕では「ロボット・アーム」としているが、英語では「トランスフォーマー・アーム」になっていた。「トランスフォーマー」シリーズはパラマウントの映画だが、ワーナーがパラマウント・スカイダンスに吸収される予定なことを考えての流用だったりするのだろうか。

ということは、なんと!昨今のハリウッド事情まで深読みできる『モータルコンバット/ネクストラウンド』…というのはかなり邪推なのだが、これらの映画ネタが本作では、次から次へと繰りだされるバトルの緩衝材になっているところが大きなポイント。血みどろのアクションの連続に笑いは(ほぼ)ないが、映画のギャグ使いでちゃんと笑いを取っているという構成になっている。だから、ゲームに関しては無知であっても、しっかり楽しめてしまったわけなのだ。
監督たちは、そうやることで観客の間口を広げようとしたのだろうか。あるいは単に自分たちの趣味なのか。その辺の真相はわからないものの、映画の愉しみ方は人それぞれということを証明してくれたと思います!

文/渡辺麻紀
