免許を返納するか否かという岐路に立たされた映画俳優が大騒動に巻き込まれていく本作は、舘プロから持ち込まれた「“舘ひろし”と“免許返納”という題材で“コメディ”を」というテーマから動きだした企画であり、セルフパロディ的要素も満載だ。ここでは舘の役者人生とリンクするポイントを拾いながら、キャリアの足跡をたどっていきたい。
■かつて演じた映画スターを再び演じた『免許返納!?』

『老人家族』で映画賞を総なめにするなど、古希を迎え、演技派俳優としてのキャリアを築く南条弘(舘)。胸中にはかつてのようにアクションをやりたいという思いを抱えるなか、『ハーレーライダー』で共演した盟友の尾崎誠(宇崎竜童)が起こしたバイク事故に対するコメントが「南条弘、免許を自主返納へ」と拡大解釈されてしまう。
これを機に免許を返納させようとする事務所社長の三宅(吉田鋼太郎)やマネージャーの川奈(西野七瀬)の思惑に反し、大好きなアクション映画が撮れなくなってしまうという心配や亡き妻との約束への思いから免許返納を渋る南条は、やり残したことを果たすべく一念発起。しかし、大きな騒動に巻き込まれ…。

この“南条弘”は、舘が1994年に主演した『免許がない!』で演じた主人公のオマージュ。『免許がない!』は、免許を持っていないことを気にするスターの南条が、映画の撮影を中断してまで自動車免許合宿に通い、厳しい教官(『免許返納!?』には西岡徳馬が演じた照屋も再登場!)と衝突しながらも、仲間たちの応援を受けて免許習得を目指すコメディ。約30年の時を経て再び南条を演じるにあたり、キャラクター像がより細かに作り上げられている。

■舘ひろしを語るうえで外せないバイク×ショットガン
例えば『免許返納!?』では、南条のフィルモグラフィまで細かく設定されているが、そのなかで“アクションスター南条”を決定付けた重要作として語られるのが、バイクに跨りながらショットガンをぶっ放す荒唐無稽なアクション『ハーレーライダー』だ。

この“バイク”は、舘ひろしを象徴するエッセンスの一つ。舘はデビュー前からバイクチーム「クールス」を結成しており、映画デビュー作『暴力教室』でも、喜多条(舘)をボスとする不良グループをクールスのメンバーと共に演じ、随所でバイクを駆る姿が映しだされている。
さらに長谷部安春監督のもと、夜な夜なハーレーで街に繰りだす若者を演じた初主演作『皮ジャン反抗族』(78)や、“タツ”や“ハト”に扮した「西部警察」など、繰り返しバイクに跨る姿を見せてきた。そこにショットガンが加わったのが、長谷部監督が深く携わった“あぶ刑事”こと「あぶない刑事」シリーズだ。
柴田恭兵と刑事バディを演じたこのシリーズでは、舘はタカこと鷹山敏樹を演じ、ノーヘルでバイクに跨り、幾度となく危険なスタントをこなしてきた。なかでもショットガンを両手に構えてバイクで犯人を追い詰めるクライマックスはお約束。ちなみに『免許返納!?』では『帰ってきた あぶない刑事』(24)で使用され、撮影後にオークションに出されたハーレーを買い手から借りてきたそうだ。
■キャリアを想起させる様々な小ネタも満載!

バイク以外にも『免許返納!?』の劇中には舘のキャリアが散りばめられている。例えば、南条が出演する劇中の「免許返納CM」で使用されている車には、「あぶ刑事」でタカ&ユージの愛車として登場した日産・レパードが使用されており、そのCM撮影を行うカメラマンの滝嶋役には“落としのナカさん”を演じたベンガルが起用されている。

また、劇中で反社会勢力に追われる南条の窮地を救うのが、八嶋智人演じるデコトラ運転手の安田。舘は「天下御免トラック野郎 銀ちゃんの事件街道!」で、ダンディだが実は女性と2人きりが苦手というトラック運転手の銀ちゃんを演じたことも。

さらにその安田に連れられて訪れた姉しずえ(南野陽子)のスナックでは、1984年にリリースした代表曲「泣かないで」を歌う大サービスもあり、色気に満ちた歌声を響かせている。このほかにも長らく“都市伝説”として語られてきた楽屋でのバスローブ姿など、南条というキャラクターの随所に舘のエッセンスが重ねられており、説得力のあるスター像が作り上げられている。
■舘プロ期待の若手、黒川想矢を直々に指名!

そんななかで、物語のカギを握る人物として登場するのが、尾崎の息子である亮。親の離婚後、母ありさ(MEGUMI)に引き取られるが、反発して家出中というキャラクターで、大人に対する絶望を黒川想矢が繊細に体現している。
この黒川は、ドラマ「剣樹抄〜光圀公と俺〜」で共演した舘に憧れ、舘プロの門を叩いたという経緯を持つ“秘蔵っ子”。脚本の段階で舘から直々の指名で映画初共演が叶い、一緒にハーレーに跨るシーンも実現。次世代への橋渡しという意味も含んでおり、本作が過去を振り返るだけでなく、現在進行形の舘を映しだしていると言えるだろう。

リアルなキャリアが反映されたユニークな役どころで、コメディセンスという新境地を見せると同時に、ダンディな持ち味も存分に発揮している舘ひろし。『免許返納!?』は、舘だからこそ成立した集大成的な物語であり、その歩みを知る観客ほど発見のある1作となっている。
文/サンクレイオ翼
