SFサイコエンタテインメントと定義された本作は、「組体操」をモチーフに集団意識の恐ろしさを突き付ける野心作。ある日、校庭で1人の生徒が突如として四つん這いのポーズを取り始める。教師たちが説得を試みても聞く耳を持たず、次の日、また次の日と参加人数が少しずつ増えていく。まるで“感染”していくように…。引っ込み思案で自分の意志をうまく伝えられない女子高生・愛(山田杏奈)は異変におびえ、転校生の優(青木柚)と共に状況を打破しようとするが…。このあらすじを聞いただけでも、本作が異様な独自性に満ちていることは言うまでもない。
■「自然と愛と同じような精神状態になっていた」(山田)

祖父母の家に里帰りした女性が恐るべき“しきたり”や“理”に遭遇する「持続可能な幸せ」の裏側をシニカルに捉えたSDGsホラーとでもいうべき斬新な下津監督の商業デビュー作『みなに幸あれ』(23)を観賞してその世界観に惹かれ、オファーを快諾したという山田。彼女自身がサイコホラーのジャンルファンであり、『ロブスター』(15)から『ブゴニア』(25)までヨルゴス・ランティモス監督作を追いかけ、『ゲット・アウト』(17)のジョーダン・ピール監督や『ミッドサマー』(19)のアリ・アスター監督をお気に入りに挙げているが、俳優として異界に足を踏み入れるのはまた別の感覚だった。「撮影はトータル2週間ほどの短さだったのでぐっと集中して臨みましたが、やはり“わからない”と思いながら演じている瞬間もありました」と告白する。お互いに「わからないけど、いいんだよね?」と共有しあえた青木の存在が支えだったといい、不可解さや異常さが際立つシーンの数々に挑んでいった。下津監督とも「今回は理屈で説明できない部分も多い作品です。言葉だけだとなかなかつかみきれないので、頭の中にあるイメージを教えていただくやり取りが多かった気がします」と振り返る。

ただ、『NEW GROUP』においてはその違和感が見事に寄与している。山田が演じた愛は、右へ倣え状態で人間ピラミッドに加わっていくクラスメイトたちやある秘密を抱えた家族といった、集団意識に染まらない自己(役名の“愛”は“I=私”から来ているそうだ)の持ち主であり、これまで行動にこそ起こせなかったものの他に左右されない芯の強さを有しているからだ。山田自身がいわば“異物”や“異端者”であり続けることが、主人公としての属性を纏わせるに至っている。本人も「私は役が抜けないことがあまりなくて家に帰ったら忘れてしまうタイプなのですが、今回はずっと作品の世界の中にいたため、自然と愛と同じような精神状態になっていたかもしれません」とシンクロ状態にあったと語る。同時に「愛は奇抜な世界と現実を繋げてくれる存在です。そのため大前提として人間味がしっかりあって、徐々に進化していく流れを意識していました」と本人も“わからなさ”を巧妙に演技へと変換していた。

■「怖がる演技は体力的に消耗する。それが生の緊張感として伝わるのかもしれません」(山田)

山田が語る通り、愛は現実を拡張したシニカルな寓話の中で、リアリティの担い手ともいえる。いわゆる恐怖演技についても、演出意図に合わせて演じる瞬間もあったものの、集団に取り込もうとする組体操の“群れ”から逃げ回るシーンでは山田自身の疲労が画面に臨場感をもたらした。「今回改めて、怖がる演技は体力的に疲れると思い知りました。驚いたり叫んだり、逃げ回ったりすると実際に息が切れて消耗します。それが生の緊張感として観客の方々に伝わるのかもしれません」。ちなみに同シーンでのグロテスクな組体操は、下津監督と日本体育大学が「どうしたら怖い動きになるか」を突き詰めて共同開発したものだという。完成形を目の当たりにしたインパクトもさることながら「リーダーの方が皆さんを率いている姿がとてもプロフェッショナルで、尊敬しました。本当に、日体大の皆さんのご協力なしでは成立しませんでした」と語る山田。「今回は特に“こうやって皆で一つの作品を作っていくんだな”と考えさせられる機会が多く、その中で自分はどういった役割を果たせるのだろうかと試行錯誤する時間でした」

ただ、山田と愛の“状態”が重なっても、“性質”が一致したわけではない。作品とは別に、役に対する“わからなさ”もあり続けた。愛には「丸いものを触ると落ち着く」傾向があり、球体への愛情(ともすれば執着)が奇妙な形で発現するシーンがいくつか用意されている。それらは理解を超えてくるものではあれど、袋小路に迷い込むことなく「まずはやってみる」精神で乗り切ったという。そうした体験をひっくるめて「とにかく新鮮でした」と笑顔で言い切れるところに、俳優・山田杏奈のしなやかさが光る。
■「『おもしろかった』と思える作品に仕上がったことに驚きました」(山田)

挑戦と思考の連続だった現場を終えた彼女は、完成版を観た感想を「笑いました!」と語った。「演じている時は完成形の想像がまったくつかなかったので、『おもしろかった』と思える作品に仕上がったことに驚きましたし、1本に繋がった映画を観て初めてわかることもいろいろとありました。私はこれまでメッセージ性が強い作品にも出演してきましたが、撮影時は役に集中して、テーマについて考えすぎないようにしています。完成した映画を観て“集団行動って立ち止まって考えてみると異様だな、学校という一つの集団は特殊だな”と思わされました。下津監督の頭の中を改めて見せていただいた気持ちです」

下津監督をはじめ、これまで組んできた監督たちに「追い込まれた表情を見たくなる」と言われることが多いと明かした山田。「いつか監禁されない役をやってみたいです」と冗談めかして語る姿はなんとも微笑ましく、逆境でなにを見せてくれるかと映画人が期待を寄せるのもうなずける。そんな彼女に怖いものは?と聞くと、少しの間考えたのちに「税金」と答えた。なるほど、山田杏奈はフィクションに命を吹き込む俳優でありつつ、現実社会を生きる“人間”であり続けているのだ。
取材・文/SYO
