ドイツ・フランクフルトで26年目の開催となった世界最大の日本映画祭である「ニッポン・コネクション」。毎年、本映画祭を通して世界における日本の立ち位置が体感でき、同時に世界中の日本カルチャー・ファンが集合するお祭りとあって、ここ数年飛躍的に規模の拡大を続けている。スイスを拠点にエンターテインメントの魅力を発信している高松美由紀が、世界の様々な映画事情などを綴る『映画紀行』にて今年の映画祭から顕著なニュースをピックアップして、今回は日本の映画界の近未来を予想してみたい。
日本映画は今、本当に世界でもてはやされているの?
その答えは、もはや“イエス”と言えるだろう。どうやら日本映画は今、近年稀に見る注目度の高さを示しているのは確かなようだ。
今年の5月にフランス・カンヌで開催されたカンヌ国際映画祭では、最高峰の部門と言われるコンペティション部門に3作品 (『箱の中の羊』(是枝裕和監督)、『急に具合が悪くなる』(濱口竜介監督)、『ナギダイアリー』(深田晃司監督) ) が、日本から正式出品され、その他の部門でも多くの日本映画や映画人たちが、カンヌ国際映画祭に招待されて、国内外で大きく報道された。そして、今回の「ニッポン・コネクション」でも、今年の観客動員数の史上最高記録が“日本映画への関心の高さ”が上がっていることを如実に証明した。
第26回を迎えた今年は、6日間 (6月2日〜7日) で約21,000人という、過去最多の来場者数を更新。昨年の観客の熱い要望を受け、今年は作品の上映回数や上映劇場を増やしたりと規模を拡大したが、フランクフルト市内の13会場で行われた数多くの上映やイベントは、早々にチケットが完売を記録した。本映画祭の創設者の1人であるマリオン・クロムファス曰く「今年は、この映画祭に初めて参加しているビギナー (初心者) が多いのが特徴です。なんとなく、巷で耳にすることが多くなった“日本映画”ってどんなものなんだろう? という興味が、より一般のお客様に浸透している様子が、客層や映画祭への問い合わせからも感じ取れます」と。これは、成熟期を超えた本映画祭がネクスト・ジェネシス (=次創世) 期に突入していると言え、今年の本映画祭内での受賞結果を見ても、新しい波が押し寄せていることが見て取れるだろう。
連日連夜、日本の映画人たちが交流する“Kanpai Night”
日本映画のネクスト・ジェネシス (=次創世) 期とは?
今年のニッポン・シネマ賞は、本映画祭でのオープニングも飾った『FUJIKO』(木村太一監督) に授与された。本作はシングルマザーである主人公の富士子が生き抜く激動の日々を楽観的な視点と不条理なユーモアを織り交ぜながら、テンポ良くポジティブに描いている。本作は、MEGUMIがプロデュースということでも話題になっているが、それ以上に木村監督のキャリアが大変興味深い。10代の頃からイギリスに住み始め、ミュージックビデオやCMなどを手がけており、今回は自らの母親の実体験をモチーフにオリジナルの物語を描いている。リリー・フランキー、YOU、岸本佳代子、そしてイッセー尾形らの豪華なキャストとともに、長編実写映画に挑戦し、先般開催されたウディネ・ファーイースト映画祭でも観客賞をダブルで受賞したりと、次々と映画祭をホッピングしている。舞台挨拶などでもイギリス訛りの英語を流暢に話す木村監督は、日本と海外の垣根なく“映画”という共通言語で堂々と独自の世界観を見せつけていた。
また、今回で12回目となるニッポン・ヴィジョンズ観客賞および審査員賞は、山内ケンジ監督の『アジアのユニークな国』にダブル授与された。本作の公式サイトでは「ひとつ屋根の下で、妻は1階では介護を、2階では違法風俗を行なっている。そんなとある一家を覗いてみると見えてくる、とある国の姿とは。 純粋社会派深刻喜劇の新作」と明記されているように、Barbara Wurm (ベルリン国際映画祭フォーラム部門ディレクター)、Hayley Scanlon (映画批評家)、石川慶 (映画監督) からなる今年の映画祭での国際審査員が「ユーモアを用いながら、日本社会におけるジェンダー規範、政治的な問題、そしてさまざまなタブーに鋭く切り込む、知的で大胆な語り口を高く評価」と作品の意図を汲んだコメントを発表している。山内ケンジ監督もまた、映画畑一本からのキャリア構築ではなく、演劇界では「城山羊の会」を主宰しており、数々の演劇賞も受賞、CMディレクターとしても活躍しながら、本作の監督に至っている。
木村太一監督にしても、山内ケンジ監督にしても、今年のニッポン・コネクションで一際注目されていた作品たちは、あくまでも自分が作りたいと思ったオリジナル映画で勝負していたことである。今までは、原作や漫画を元にした映画というものが、海外の観客にもてはやされた時代もあったが、今年は日本映画に対する初心者の参加が多いと言われている本映画祭でも、新人監督のオリジナル映画など、より挑戦的な映画に注目が集まっていた。まるで、日本に観光に来た海外の旅行者たちが、寿司やトンカツのような定番の日本食以外にも挑戦しようという流れと似ている気がするのは筆者だけだろうか。
この他にも、今年初めて創設されたニッポン・アニメーション・ショート部門などもあり、世界が求めている“日本からの映画”というものが如実に反映された招待作品群とその受賞結果であった。まさに、今年はオリジナルの個性とアニメのポテンシャルがフィーチャーされたネクスト・ジェネシス (=次創世) 期への突入の始まりだと言える。
映画『FUJIKO』 木村太一監督
