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酒井善三 監督が語る 介護、家族愛、そして“解決できない恐怖”が生む新たなホラー『遺愛』

酒井善三 監督が語る 介護、家族愛、そして“解決できない恐怖”が生む新たなホラー『遺愛』

日本が家族のドラマに強いという理由

池ノ辺 海外の評価も高いですね。映画祭はどこか行かれましたか?

酒井 オランダの、ロッテルダム国際映画祭に行かせていただきました。作品の評価は、個人個人の感想があるでしょうからちょっとわからないですが、面白いといってくださる方もいました。海外の記者の方たちから取材を受けるというのは、とても貴重な体験でしたね。映画祭も本当に世界各国から人が集まっている大きな映画祭だったんです。我々が日本にいるだけではわからない、到底「映画」という言葉だけで想像できるようなものではなくて、世界ではもっと大きな文化として、映画は人々に受け入れられているんだという感動もありました。

池ノ辺 観終わった人たちの感想などは何か聞かれましたか? 日本はああいう風に介護しているんだ、というようなことも言われたんじゃないですか。

酒井 確かにそうおっしゃってた記者の方もいました。ああいうことは日本では大きな問題なのかと。とはいっても、僕としては社会問題について言いたいわけではない。ただ面白い映画を撮ろうと、かつリアリズムを追求したら偶然こうなったんだと。もちろん底層にはそういう社会問題があるでしょうけど、それを訴えたかったわけではないということは伝えました。

池ノ辺 これは監督の意図するところではないのかもしれませんが、介護というものは、血がつながっているからとか親だからとか、そういう逃げ場のないところでどんどん追い詰められていくというのが切実に感じられたんです。でも先ほどの監督の話を伺って、確かにそこに逃げるという見方もあるのかもしれないと思いました。

酒井 海外の方は、日本のドラマといえば家族の話というイメージもあるんでしょうね。実際そうだと思うし、逆に言えば、それは家族と職場以外の人間関係が希薄だからだと思うんです。日本の社会で介護というものが家族の問題になってしまうというのもそこに要因があると思います。コミュニティが存在しないから必然的にそういう事態になってしまう。今の日本でリアリティを追求した結果、ああいった家族の話になったというところなんですけど、逆にいえば海外に対してはユニークなのかな。

池ノ辺 監督は、見えないからこそ怖いという話をされていましたが、見えないからこそ、その怖さの中に観る人それぞれのそれまでの人生、そこで見てきたこと、体験したことなどが反映されているのかもしれませんね。だからこそ、奥行きのある面白い映画だと思ったんです。

酒井 うれしいです。

仕事にするのが難しいからこその、純粋なモチベーション

池ノ辺 最後に、皆さんにお聞きしているのですが、監督にとって映画ってなんですか。

酒井 映画は、視覚と聴覚でもって、何か言葉にできないような感覚とか感情を呼び覚ますものかなというふうに思っています。そういうものにしたいなと。

池ノ辺 それを作る側でいたいと。

酒井 そうですね。作るのも結構おもしろい。こうやったらどんな感じがするだろうかといったことをスタッフと話し合ってやるのはとてもおもしろい作業なんです。そういう実験のようなところも楽しいと思っています。

池ノ辺 最初にもお聞きしましたが、小さい頃から映画監督になりたかったんですよね。

酒井 それは本当に小さい頃です。『ジュラシック・パーク』(1993) を観た頃から。

池ノ辺 それが今や、夢を叶えたわけですね。

酒井 まあそうかもしれないですが、映画監督というのはもはや仕事ではないのかも、と僕自身は思っているんです。

池ノ辺 それはまたどうしてですか。

酒井 それで食べていくというのは現実的には難しいというのがまずあります。それと、どんな仕事もそうだと思うんですが、我々は仕事となるとプライドもあるし、そこでお金をもらってプロとしてやっているということに寄りかかりがちになると思うんです。監督が映画一本で食べていくのが難しいということは、逆にいえばその寄りかかりを持たないということです。持たないからこそ、実験とか趣味とかそういうところをモチベーションにするしかない。

池ノ辺 純粋にそれがやりたい、それが楽しいという‥‥。

酒井 それは僕としては案外否定すべきことではないな、悲観的になることでもないなと思っています。





インタビュー / 池ノ辺直子
文・構成 / 佐々木尚絵
撮影 / 岡本英理

プロフィール 酒井 善三 (さかい ぜんぞう)

監督・脚本

1985年生まれ。映画美学校の修了作品として『おもちゃを解放する』(2011) を制作した後、篠崎誠監督の『あれから』(2012)、『SHARING』(2014) に共同脚本として参加。2021年の短編『カウンセラー』は、SKIPシティ国際Dシネマ映画祭にて短編映画初のSKIPシティアワードを受賞。黒沢清や清水崇からも絶賛された。大森時生がプロデュースを務めたテレビ東京製作の配信ドラマ『フィクショナル』は2024年に劇場公開もされた。その他の監督・脚本作に『RIP』(2018)、『コロナvs信心』(2022) などがある。2021年、本作のプロデューサーである百々保之、脚本・編集を担当した宮﨑佳祐と共に映像制作チームDrunkenBirdを設立。

作品情報 映画『遺愛』

父の死を機に実家へ戻り、母の介護を始めた佳奈。母との時間を取り戻すかのように献身的に介護をするが、次第に周囲で起こる異変に、違和感を覚えていく。佳奈と母は、呪われているのか? それともナニカを呪ってしまったのか? 慈愛に満ちた介護のはずが、徐々に不穏さと違和感が混在したような、ただならぬ恐怖に2人は飲み込まれていく。

監督:酒井善三

出演:山下リオ、小川あん、藤井京子、マキタスポーツ

配給:ライツキューブ

©︎2026「遺愛」製作委員会

2026年6月19日(金) 全国公開

公式サイト tx-iai-movie

配信元: otocoto

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