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“お金持ちほど危険”な世界へ 映画『億万長者の不都合な終末』のブラックユーモアが痛快

“お金持ちほど危険”な世界へ 映画『億万長者の不都合な終末』のブラックユーモアが痛快

©2023 RICH FLU A.I.E, NOSTROMO PICTURES S.L., BASQUE FILMS SERVICES S.L., MAMMA TEAM SONDER ENTERTAINMENT S.L.

【やくみつるのシネマ 小言主義 第299回】『億万長者の不都合な終末』
動画配信プラットフォームを運営する企業でプロデューサーを務めるローラ(メアリー・エリザベス・ウィンステッド)は、家庭を顧みず、すべてを犠牲にしながら忙しくも華やかな日々を送っていた。ついに映画業界での成功を手にする機会がめぐってくるが、富裕層の人々だけが感染し、死に至らしめる病「リッチフルエンザ」が蔓延する。富が成功の象徴である資本主義の社会は崩壊し世界が混乱に陥る中、ローラはある決断を下す。

歯の白さが招くブラックな運命

上流階級だけが罹患する謎の奇病「リッチフルエンザ」がまん延するという着想が、まず面白いです。

自分も常々「富裕層はみんなよくない死に方をすればいい」などと思っているクチ。この映画の金持ちたちもそうですが、高級車やプライベートジェットに乗り、パーティーざんまい、ぜいたく品を買い、使いにくそうなほどの広い家に住む。金の使い道って、そんな発想しかないのか。それで不老不死になるわけじゃなし、大したことねぇよ、と思うんですよね。なので、大富豪が次々と淘汰されていく様に、カタルシスを覚えました。

それがなぜ星2つにしたかというと「どんなウイルスが、どういう感染ルートで」という疫学的観点での説明がなく、「またパンデミックが起きたぞ」、「今度は金持ちから死ぬぞ」という現象だけで話が進むから。そこだけが納得いかず、少々食い足りないなと。

しかしながら、自分を含め、ご覧になる多くの方は感染リスクの少ない側だと思われますので、溜飲は下がる作品だと思います。

面白いのが、原因不明の病の初期症状が「歯が真っ白に光る」こと。欧米では「歯の美しさは富の象徴」なのをおちょくっているんです。若手お笑いコンビ『エバース』の漫才で「日本ハムの新庄剛志監督をペットにして飼いたいか?」というネタを思い出して笑えました。ボケの町田が「歯が真っ白すぎて怖いから嫌だ」と言うのですが、人間はやりすぎているものに対しては、警戒感を抱いてしまう心情をうまく使っていますよね。

【関連】完璧な大富豪か、夢追う元恋人か――映画『マテリアリスト 結婚の条件』が突きつける“婚活のリアル”【やくみつるのシネマ 小言主義 第298回】


最後まで見届けたい秀逸な結末

さて、本作の主人公はストリーミング・プラットフォームの映画プロデューサー・ローラ。家族を顧みず自らのキャリアにすべてを捧げてきた結果、念願の富と権力を手に…と思った矢先の価値観の大転換です。

富が死を招くと分かってからは、金持ち同士で財産のなすりつけ合いが始まるのですから、実に滑稽です。

映画の後半は、資本主義社会からのサバイバルゲーム。家族の絆など、お金では買えないものに目覚めたローラは裸一貫になるまで逃げ続け、秀逸なオチに至ります。どうか最後の瞬間まで見逃さないでください。

一言だけ付け加えるなら、流れ着いたアフリカ・リビアの描き方が雑。リビアってもともとは都会です。石油も出ていたし、豊かな国だったんです。カダフィ大佐が統治していた時代は、観光もできたし、インフラも整備されて文化程度も高かった。今や内戦状態ですけどね。

『億万長者の不都合な終末』
監督・脚本・製作:ガルデル・ガステル=ウルティア 出演:メアリー・エリザベス・ウィンステッド、レイフ・スポール、ロレイン・ブラッコ、ジョナ・ハウアー=キング、ティモシー・スポール 配給:シンカ 6月19日(金)より新宿ピカデリーほか全国ロードショー

「週刊実話」6月25日号より

やくみつる
漫画家。新聞・雑誌に数多くの連載を持つ他、TV等のコメンテーターとしてもマルチに活躍。
配信元: 週刊実話WEB

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