箱から落ちた一枚の紙
彼の誕生日に、私は手作りの料理と小さなプレゼントを持って彼の部屋を訪ねました。
テーブルには、見慣れない腕時計の箱が置いてありました。聞けば、ずっと気になっていた時計を自分で買ったのだといいます。素敵だねと箱を手に取ると、中から保証書らしき一枚の紙がはらりと滑り落ちました。
私が拾おうとした瞬間、彼は「それ、見なくていい」と言って、その紙を素早く折りたたみ、引き出しの奥にしまったのです。ただの保証書のはずなのに、どうしてそんなに急いで隠すのだろう。穏やかだったはずの空気が、少しだけぎこちなくなりました。
見せてくれない、という事実
気になった私は、「どうして見せてくれないの?」と聞きました。彼は目をそらしながら「隠してるわけじゃないよ」と言うだけで、それ以上は何も話してくれません。その態度が、かえって私の不安をふくらませました。保証書に、誰か別の人の名前でも書いてあるのだろうか。私の知らない誰かから贈られたものなのだろうか。考え出すと、よくない想像ばかりが頭に浮かびます。
そういえば少し前、私が誕生日に何が欲しいか聞いたとき、彼は「誕生日とか、別にいいよ。欲しいものもないし」と答えていました。それなのに、自分で新しい時計を買っている。その食い違いが、よけいに私を落ち着かなくさせたのです。
