誰も悪くないのに広がる波紋
読売ジャイアンツ・阿部慎之助監督の突然の逮捕には驚いたね。夜のニュース番組で阿部さんが娘に暴行して現行犯逮捕されたという速報が入り、翌日には退任が発表。記者会見で本人が謝罪するというスピーディーな展開に戸惑った人も多かったんじゃないかな。
ただ、すべてが内々に処理されてしまったように見えて、野球ファンは置いてけぼりにされてしまった感もあるし、事件の経緯には少し引っかかるような疑問点も多い。
娘さんは父親から暴行を受けて、AIに指示を仰いで児童相談所に連絡したというけど、「児童」の定義は18歳未満。娘さんは18歳と報道されていて、選挙権もある成人だから、原則的には児相では対応できない。それですぐに警察に連絡したんだろうけど、そのあたりに何か行き違いがあるような気がするよね。
AIというのは使い続けていくことで、ユーザーである人間側のことを学習する。なので、「児童相談所に連絡しろ」という指示を出した時点でAIが質問している人間が18歳ということを認識していないということになる。娘さんは普段からAIをあまり使ってなかったのかもしれない。
でも、娘さんはAIの指示に従って児相に通報するが、児相は成人が対象外なので警察に連絡する。警察は通報を受けて現場に向かい、被害者を保護して加害者の父親を逮捕する。読売ジャイアンツは逮捕されたという事実をもって、阿部さんをすぐに解雇した。
この事件で動いた人たちはすべてマニュアル通りの行動をしていて、誰も間違っていない。でも、こんな結果を望んでいたのかと言われれば、それは違うと思う。
【蝶野正洋の黒の履歴書】アーカイブ
「謹慎して復帰」はもう昔話
始まりはよくある家庭内のトラブルで、それがいろいろな人を巻き込んで大ごとになってしまうというのが現代的だし、誰の身にも起こる可能性がある。
別に娘さんも、日ごろから人に迷惑をかけるようなタイプではないと思う。子供なら、誰でもそういう時期がある。姉妹喧嘩もするだろうし、反抗期で親に歯向かったりする。そんな衝突を家庭内で繰り返して、人は成長していく。そこに、行政や周囲の人間がどこまで介入するのかという見極めは難しいよ。
それに阿部さんが即日解雇されて、現場を離れるというのも今どきだよね。まずは事情聴取して実態を調査してから判断するとか、しばらく謹慎するなどワンクッションあってもいい。今回は速やかに処分だけが進んで、検証しないまま事件に蓋をしてしまった感がある。現代における上場企業のトラブル処理としては、これが最善なんだと思うけどね。
ひと昔前だったら、まずは謹慎してオールスター明けくらいに復帰し、敵チームのファンからヤジを飛ばされながら奮起する…みたいな展開もあったはず。メジャーリーグに話題を持っていかれてしまっている日本のプロ野球界としては、注目を集める手段になったかもしれないよ。
でも、今はもう通用しないだろうね。ファンの間では監督復帰の署名活動が起きたけど、そんなアナログな方法でいくら騒いだところで、ひっくり返るような時代でもなくなってきている。コンプライアンスという言葉をよく見かけるようになったけど、そんな時代の移り変わりを象徴するような出来事だったと思うよ。
「週刊実話」6月25日号より
蝶野正洋(ちょうの・まさひろ)
1963年シアトル生まれ。84年に新日本プロレス入団。「nWo JAPAN」を率いるなど〝黒のカリスマ〟として活躍し、2010年に退団。現在はプロレス関係の他に、テレビやイベントに出演するタレント活動、「救急救命」「地域防災」などの啓発活動にも力を入れる。
