言えなかった、たった一言
彼女の表情が、わずかに曇ったのがわかりました。きっと、突き放されたように感じたのだと思います。そうじゃないと言いたいのに、言葉を重ねるほど、自分の気持ちがうまく形にならない気がしました。
本当はずっと、怖かったのかもしれません。一緒に暮らそうと口にして、もし重いと思われたら。そう考えるほどに、用意していたはずの言葉が遠ざかっていくようでした。
結局、彼女は別の袋を抱えて帰っていきました。引き止める言葉も、本当のことも、結局は伝えられないままで。
そして...
一人になった部屋で、俺は台の上をぼんやり眺めていました。彼女のために選んだはずの食べ物が、今は誰のものでもなく残っています。分けたかったのは、彼女のものと俺のものじゃない。むしろ、その逆だったのに。
俺はスマホを手に取りました。今度は逃げずに、この袋ごともう一度差し出そう。「これ、全部君の」と、たった一言を添えて。
情けない遠回りばかりですが、彼女にだけは、まっすぐ伝えたいと思ったのです。
(20代男性・営業職)
本記事は、ハウコレ読者への独自アンケートに寄せられた実体験をもとに制作していますが、個人が特定されないよう、一部設定を変更しています。
(ハウコレ編集部)
