水生動物はオタマジャクシにならずに陸上に進出した可能性がある

中学理科のまとめ教材などでは、脊椎動物の出現した順序は「魚類→両生類→爬虫類→哺乳類」と説明されます。
魚類が最初に現れ、しだいに陸へ適応する仲間が登場した——という”登場の順番”としては、これは今も使われています。
ただし注意したいのは、これはあくまで”出現した順番”であって、「魚→両生類→爬虫類→哺乳類」と一本道で受け渡されていく系譜ではない、ということです。
DNAなどを用いた系統解析からも、両生類の仲間と、爬虫類・哺乳類の仲間(有羊膜類)は、共通の祖先から早い段階で枝分かれしたと考えられています。
爬虫類と哺乳類も「一つ前、一つ後」の関係ではなく、枝分かれした”遠い兄弟”なのです。
では、魚類・両生類・爬虫類・哺乳類は、実際にはどう枝分かれしてきたのでしょうか。そのカギをにぎるのが、研究者たちが調べた「エンボロメア」たちでした。
かつてエンボロメアは「両生類の一種」と考えられていました。けれどいまでは、両生類でも爬虫類でも哺乳類でもなく、それらのどれもがまだ枝分かれする”前”の段階にいた動物だと分かっています。
科学者は、この位置にいる動物を「幹四足動物(かんしそくどうぶつ)」と呼びます。
そしてこれまでは、この幹四足動物の段階で、すでにオタマジャクシのような水生の幼生期と変態をへて大人になっていた、と考えられてきました。
その性質が、のちに枝分かれする両生類だけでなく、爬虫類や哺乳類の祖先にも受け継がれた——つまり「オタマジャクシ的な時期は、みんなの先祖が通ってきた共通の道だ」と思われていたのです。

ところが今回の発見は、その前提をくつがえしました。
鰭(ヒレ)から四肢への移行をまたぐ幹四足動物たちは、変態をしていなかったのです。
さらに研究者たちの見立てでは、変態というしくみが登場したのは、四足動物が指のある手足を手に入れた時期から、少なくとも4000万年、長ければ6000万年も後のことであることが示されました。
つまり変態は、生き物を水から陸へ運んだ”原因”ではありませんでした。
陸の暮らしへ適応していく長い流れのなかで、あとから加わった”後発の適応”だったのです。
ただし、その変態が「いつ・どこで」生まれたのかは、まだ決着していません。
論文は、同じくらい確からしい2つの可能性を挙げています。
ひとつは、四足動物の根元あたりで変態が一度だけ生まれ、その後、有羊膜類(爬虫類・哺乳類)などで失われた、という筋書き。
もうひとつは、両生類側などで、変態が複数回、別々に獲得された、という筋書きです。どちらが正しいかは、これからの課題として残されています。
陸への橋は、魔法のような一発の変身ではありませんでした。
長い時間をかけた、地道な”足づくり”と”口づくり”——そう考えるほうが、ずっと自然なのです。
研究を率いたパルド氏は、こう語ります。
「私たちは進化について、『魚の一部が両生類に進化し、その両生類の一部が爬虫類に、その爬虫類の一部が哺乳類に進化した』という単純化された物語を教えられてきました。しかし私たちの研究は、最初の四足脊椎動物が両生類のように成長したという、その基本的な前提が間違っていることを示しているのです」
ここまで読んで、「面白い話だけれど、自分には関係ないかな」と思われた方もいるかもしれません。
けれど、この発見は、私たち人間の体ともつながっています。
パルド氏は言います。「これら初期の四足動物の一生は、両生類よりも、むしろ私たち人間や魚類の一生に近いのです」。
たしかに私たちの赤ちゃんも、お母さんのお腹の中で時間をかけて育ち、生まれたときにはもう、人間の姿をしています。
生まれたあとに、エラが生えたり、尾が消えたり、体じゅうが別の姿へ作り替わったりはしません。
私たち人間も、別の体へ”変態”するのではなく、生まれたときの基本設計を少しずつ完成させながら育つ——その点では、あの赤ちゃんたちと似ています。
では、何が私たちを陸へ運んだのか

変態という”魔法”がなかったのなら、いったい何が、生き物を水から陸へと押し上げたのでしょうか。
実は、ここにも今回の研究の、もうひとつの手がかりがありました。
あのエンボロメアの赤ちゃんは、たしかに足を持っていましたが、その足はまだ小さく、支える肩まわりの骨も固まりきっていませんでした。生まれてしばらくは、しっかり歩ける体ではなかったのです。
そのため研究者たちは、自由に泳ぎはじめた幼体でも四肢がまだ未発達だったことを踏まえると、本格的に陸へ進出するには、まず足の発達を”前倒し”にすること、つまり赤ちゃんの時期から脚を作ることが、欠かせない条件だったのではないか、と。
そして論文では、もうひとつの条件にも触れています。
それは、口まわりの作り替えです。
水の中で獲物を吸い込んで食べていたしくみを、陸の上で食べ物を扱えるように、口や首ごと変えていくこと。
歯やあご、唾液を出すしくみを整えること。そうした地道な改良の積み重ねこそが、上陸の本当の鍵だったのかもしれません。
変態こそが、水から陸への橋渡しだった――という長く語られてきたその物語について、パルド氏は「その説は、もう通用しません。まるで、風に舞う塵のように消えてしまったのです」と述べています。
幹四足動物が、いつ、どこで、どうやって、より陸に適した姿になっていったのか——その全貌は、まだ分かっていません。
けれど、爬虫類や哺乳類へとつながる幹の系統で、両生類のような変態が”もともとの育ち方”ではなかったらしいとわかったことは、上陸の物語を解き明かすうえで、大きな一歩になります。
鰭から四肢への移行をまたいだ初期の四足動物たちは、オタマジャクシではありませんでした。
遠い時代の小さな赤ちゃんと私たちは、その”育ち方”のいちばん古いかたちで、つながっているのかもしれません。
参考文献
Fossilized babies of ancient crocodile-like predators uproot scientists’ understanding of how animals adapted to the land
https://www.fieldmuseum.org/about/press/fossilized-babies-of-ancient-crocodile-like-predators-uproot-scientists-understan?utm_source=chatgpt.com
元論文
Direct development of stem tetrapods across the fin-to-limb transition
https://doi.org/10.1126/science.aeb7635
ライター
川勝康弘: ナゾロジー副編集長。 大学で研究生活を送ること10年と少し。 小説家としての活動履歴あり。 専門は生物学ですが、量子力学・社会学・医学・薬学なども担当します。 日々の記事作成は可能な限り、一次資料たる論文を元にするよう心がけています。 夢は最新科学をまとめて小学生用に本にすること。
編集者
ナゾロジー 編集部

