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午前3時に行列ができる「日本一の立ち食いそば」物価高でも260円メニューを残す名店の安さとうまさへの執念

午前3時に行列ができる「日本一の立ち食いそば」物価高でも260円メニューを残す名店の安さとうまさへの執念

深夜でも早朝でもない、街がまだ完全には目覚めていない時間帯に、東京・八丁堀の交差点にポツリと明かりがともる――。年間100食以上「立ち食いそば」を食べる筆者が、「立ち食いそば」にのめりこむきっかけとなった名店「そばのスエヒロ八丁堀店」の魅力に迫る。(前後編の前編)

「これ以上うまい食べ物がこの世にあるのか?」

店内の間取りは三角形のような独特のつくりで、店内に入れるのは最大6~7人ほど。決して広い店ではない。だが、その小ささとは反比例するように、一杯の満足感は驚くほど大きい。

なかでも看板格の「ゲソ天」は圧巻だ。ごろりとした大ぶりの天ぷらにはしっかりとした歯ごたえがあり、熱いつゆを吸っても存在感が消えない。そばと合わせれば、「これ以上うまい食べ物がこの世にあるのか?」と、毎回大げさなくらいの感動を覚える。

天ぷらの種類は多く、どれも低価格。昼どきには店の外にいつも行列ができている。東京駅からも銀座からも歩いて十数分。この場所で、この味を、この値段で出しているのだから、並ぶ人が絶えないのも当然だろう。

本当に食べるたびに思う。なぜこのクオリティで、この値段でやっていけるのか。しかも驚くべきは営業時間だ。ほとんど人通りのない時間帯、以前は朝3時、2026年春からは午前1時から(火曜~土曜日、月曜は5時半より)店を開けている。

その理由を知るため、山本社長と志賀直道店長に話を聞いた。

創業は1978年。もともとは「六文そば」グループの一店舗として始まり、その後は先代の阿部正夫さんが長く守ってきた。そんな店が閉店を迎えようとしたとき、手を挙げたのが、日暮里の「一由そば」を運営する山本社長だった。

山本社長は、経営者となる以前から、ひとりのファンだったという。

「引き継ぐ前から10年以上通っていました。自分の店をやりながらも、夜中の2時、3時にふらっと来るくらい好きな店だったんです」

同じ立ち食いそば店を営む立場として阿部さんと話を重ね、コロナ禍では対策を相談しあうことで関係はさらに深くなり、店を受け継ぐことになった。

「スエヒロは、チェーン店のように整いすぎた店じゃなくて、どこか屋台の延長線上にあるような店なんです。交差点に明かりがついていて、そこに人が集まってきて、さっと食べて帰っていく。その感じが好きなんですよね」

スエヒロは時間帯によって客層も変わる。夜中はタクシーやトラックのドライバーが多く、朝に近づくにつれ、仕事終わりの職人や出勤前の会社員がやってくるという。スエヒロは、都市の働く時間に寄り添っている店でもある。

では、その一杯はどのように支えられているのか。

「つゆって生き物だから」先代が残した言葉

現場で味を守る志賀店長がまず口にしたのは、つゆの難しさだった。

毎日、開店の3時間前に店に入り、出汁をとってつゆを仕込むという志賀店長は、こう話す。

「味の差が出すぎないよう、できるだけ細かく見ています。ちょっとしたことでもズレてしまいますから」

スエヒロでは、つゆをただ温めて一定の状態で保つのではなく、営業中も出汁を取り、新しいつゆをつぎながら回していく。つぎ足した直後はカツオの香りが立ち、時間がたてば煮詰まって味が濃くなる。どの状態を「いちばんうまい」と感じるか、人によって違うからこそ難しい。

「つゆって生き物だから」と、先代の阿部さんがよく話していたという。

「売れ行きによって減るスピードも違うし、季節や気温によってもその影響で味も変わる。だからブレをゼロにすることはできない。その幅をどこまで小さくできるかを、毎日考えています」

さらに山本社長は、そこに“立ち食いそば”ならではの美学を重ねる。

「立ち食いそばは、早く食べられて、安くて、おいしいのが魅力です。その中で、天ぷらは揚げ置きでもちゃんとおいしいものにしたい。つゆに入れたときにすぐ負けないこと、サクッとした感じができるだけ残ることを意識しています」

高級そば屋の価値観ではなく、立ち食いそばというジャンルのなかで、どこまで理想を詰められるか。その勝負を、スエヒロは続けている。

もっとも、いまスエヒロを取り巻く現実は厳しい。物価高騰は、「早い、安い、うまい」を掲げる店ほど重くのしかかっている。

2026年3月には、そばやうどん、おにぎりなどの米類を20円値上げした。

ただ、スエヒロそばを愛する筆者としては、たった20円の値上げでいいのかと思ってしまう。ファンとしては、もう少し値上げしてでも、無理のない形で続けてほしいと感じてしまうが、山本社長は言う。

「いまは値上げのタイミングを一度逃すと、次は50円、60円と一気に上げざるを得なくなる。立ち食いそばにとって、50円はすごく大きいんです。たまにがっつり食べる人もいれば、毎朝ルーティンで通う方もいる。同じ50円でも、その重みは違います。だからこそ、一気に上げるのではなく、なるべく小さな幅で値上げをお願いして、お客さんの負担を最小限にしたいんです」

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