【スージー鈴木の週刊歌謡実話第37回】
岩崎宏美『思秋期』
作詞:阿久悠
作曲:三木たかし
編曲:三木たかし
1977年9月5日発売
横山剣が引き出した『思秋期』秘話
さる6月1日、私の新刊『ライバルたちのJポップ史』(祥伝社)が発売されました。ぜひよろしくお願いします。
でも、奥ゆかしい私は、自分の本ではなく、他人の本を取り上げるのです。
今回は横山剣『昭和歌謡イイネ!』(小学館)。クレイジーケンバンドのボーカル=横山剣が、自らの経験をふんだんに入れ込みながら、昭和歌謡の名曲を次々と語っていく本。
しかし、その中にポンと置かれている岩崎宏美(横山剣にとって堀越学園の先輩にあたるというから面白い)との対談が実によかったのです。今回は、その対談を取り上げます。
高校時代の思い出や、岩崎宏美のデビューのきっかけとなった日本テレビ系『スター誕生!』の話で盛り上がるのですが、話の中盤で、岩崎宏美が突然、自らの傑作シングル『思秋期』(1977年)について語り出します。
「阿久(筆者註:悠)さんに詞を書いていただいた『思秋期』には、特別な思い入れがあって」と彼女。対して「珠玉の名曲です」と横山剣。
実は岩崎宏美、芸能界入りするときに、父が猛反対。そこで「20歳までやらせてください」という約束をしていたらしい。そして、
――当時は父と約束した20歳が近づいていたし、この曲の歌詞には〈卒業式〉という言葉が出てくる。だから、レコーディングしながら「もうすぐやめなくちゃいけないのかな」と感極まってしまい、涙が止まらなくなっちゃったんですよね。
このエピソードは知らなかった。70年代リアルタイムの岩崎宏美ファン、さらに彼女の作品の中でも『思秋期』をもっとも愛している音楽評論家でも、この話は知らなかった。
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名曲がつないだ父娘のその後
しかし、さらに泣けるのは、そこから。19歳・岩崎宏美の思いが通じたのか、『思秋期』を聴いてからお父さんは、「歌手をやめなさい」とは一切言わなくなったというのです。
いい話だなぁ。
そのお父さんのおかげさまで、岩崎宏美は今もバリバリの現役なのですから。
あと、この対談では、彼女がNHK紅白歌合戦に出場したとき、美空ひばりも出場(’79年紅白)。紅組の出場歌手が、ひばりのバックで手拍子を打つという演出があったのですが、そのとき、舞台に立っていた紅組の出場歌手が、みんな感動で泣いていたという話もよかったのです。
話を戻すと、一般的に岩崎宏美は『ロマンス』(’75年)、『シンデレラ・ハネムーン』(’78年)などの「作詞:阿久悠、作曲:筒美京平」作品で語られます。
しかし『思秋期』は、作詞こそ阿久悠ですが、作曲は筒美京平ではなく、三木たかし。
徹底的にリスペクトされ、あれこれうっとり語られがちな筒美京平に対して、三木たかしワークスも、もう少し語られてもいいのではないでしょうか。
どの曲から? もちろん『思秋期』からですよ。
「週刊実話」6月25日号より
スージー鈴木/音楽評論家
1966(昭和41)年、大阪府東大阪市出身。『9の音粋』(BAYFM)月曜パーソナリティーを務めるほか、『桑田佳祐論』(新潮新書)、『大人のブルーハーツ』(廣済堂出版)、『沢田研二の音楽を聴く1980―1985』(講談社)など著書多数。
