
■『火喰鳥を、喰う』での怪演、「ターミネーターと恋しちゃったら」のエレガントな所作が印象的
織田信長の暴虐なやり方に耐え切れなくなった重臣、荒木村重(本木)が謀反を起こし、籠城戦を突如決行する。だが、立て籠った有岡城は瞬く間に織田群に包囲され、孤立無援の状態に。村重は妻の千代保(吉高)を心の支えに、家臣たちと共に城を守るため苦心するが、城内で幽閉していた人質の少年が殺される事件が発生。その後も怪事件が次々に起こり、有岡城は不穏な空気に包まれていく。果たして、容疑者は密室と化した城内の家臣や身内の誰かなのか?城外の敵軍と通じる裏切り者が存在するのだろうか?誰もが疑心暗鬼になっていくなか、村重は地下牢に監禁した天才軍師、黒田官兵衛(菅田)に協力を仰ぎながら事件の真相に迫っていく。
グループでの立ち回りやバラエティ番組などで見せる親しみあるキャラクターで人気の“舘様”こと宮舘涼太。『黒牢城』が第79回カンヌ国際映画祭「カンヌ・プレミア」部門に正式出品された際には、フォトコールで華麗なターンを披露して世界中のメディアの脚光を浴びるなどスター性も抜群だ。一方、昨年公開の超常ミステリー『火喰鳥を、喰う』(25)で演じた北斗総一郎役の怪演を思い出す人も多いはず。
北斗は水上恒司が演じた主人公、久喜雄司の妻、夕里子(山下美月)の大学時代の知り合いで、超常現象などへの造詣が深い。けれど、初対面の雄司の前で夕里子を下の名前で呼び、周囲を見下したような言動をする失礼な奴。それでいて人を引き込むトークで独自の理論を展開し、苛つかせながらも雄司たちや映画を観ている観客に耳を傾けさせる。そんな高難度の役にもかかわらず、映画単独初出演だった宮舘はそれをまんまと自分のものに。超長ゼリフでまくし立て、胡散臭くて鼻持ちならない北斗を強烈なインパクトで作り上げて注目を集めた。
また、今春放送された連続ドラマ「ターミネーターと恋しちゃったら」では、400年後の未来からアラフォー女性漫画編集者(臼田あさ美)のもとに送られてくる“イケメンアンドロイド”という役どころで出演。持ち前のエレガントな所作といかにもアンドロイドらしい機械的な動きを使い分けながら快演していた。
■荒木村重に付き従う忠臣、乾助三郎を自然体で好演
それだけに、『黒牢城』の宮舘には驚かされる。なにしろ、村重に忠義を尽くす家臣の乾助三郎に扮した彼には、『火喰鳥を、喰う』のインパクトも美しいダンスでオーディエンスを魅了する輝きも感じさせないから。村重に付き従う忠臣という役柄に真摯に向き合い、信頼のおける誠実な受け答えと適度な距離感で体現。その自然な立ち振る舞いが逆に新鮮だったりもするし、ぼんやり観ていたら、宮舘が助三郎を演じていることに気づかないかもしれない。

■主君と事件を検分する姿がまるでホームズとワトソン
その自然な主従関係が特に印象的なのが、信長に寝返った家臣を父に持つ少年、自念(槙木悠人)が矢で射られて殺害された第1の事件。現場は密室状態にあった一室であり、「天誅が下ったのだ」と騒ぎ立てる者もいるなか、自念がどのような方法で殺害されたのかを村重と助三郎が検分する。しかし、どこにも凶器の矢は残されておらず、屋内で矢を放とうとすれば天井や床に長弓が当たってしまうし、雪が積もった庭を挟んだ通路から狙おうにも灯籠が邪魔をして確実に標的を射抜くのは極めて困難に思われる。
村重の指示で事件当時を再現するため、自念に見立てた俵を部屋に置き、障子をわずか数センチほど開けた状態にする助三郎。さらに、放った矢を回収する手段の仮説として、矢に結んだ糸を離れた通路から引っ張ってみるのだが、「このやり方だとやはり雪の上で跡がつきまする」とすぐさま報告する。一連の彼の言動には無駄がないし、のちに官兵衛が詠んだ狂歌を口ずさむ主君の姿を見て、かつて戦場でまともに戦おうとしない荒木勢を揶揄して陣中に流れた戯れ歌「あら木弓はりまのかたへおしよせて いるもいられず引もひかれず」を言葉にして思いがけずヒントを与えるなど、その表情や空気感で助三郎の勘が鋭いことを観る者に伝えるのだからさすがだ。

このように様々な殺人方法を検討しながら事件の謎に迫っていく村重と助三郎のやり取りは、さながらかの名探偵シャーロック・ホームズと相棒の医師ジョン・H・ワトソンのようであり、どこか微笑ましくてほっこりする。
それは、『羊たちの沈黙』(91)におけるFBIの女性訓練生クラリスと元精神科医の殺人鬼レクター博士を想起させる、村重と官兵衛の関係性とは異なるもの。漂う空気も明らかに違うその2つのシークエンスを観比べながら、映画『黒牢城』に仕掛られた謎に挑んでみるのもおもしろいだろう。宮舘涼太のさりげない芝居が、本作の秘密を解くカギになるかもしれないから。
文/イソガイマサト
