テレビはまだまだトガっている。心に“刺さった”番組を語るリレー連載「今週のトガりテレビ」。今回は、テレビウォッチャーの戸部田誠(てれびのスキマ)が、2026年上半期の活躍が印象的だった3人(組)を発表する。
『M-1グランプリ』準優勝者がバラエティ番組で大躍進
昨年末の『M-1グランプリ2025』で準優勝し、脚光を浴びたドンデコルテ。聴衆に向かって演説するかのような渡辺銀次の独特な芸風とたたずまいが注目されたが、最初に火がついたのは意外なところからだった。
仕事がない頃、同期のカゲヤマ・益田康平の実家「益々荘」で無心になって完成させたこだわりの「銀次チャーハン」がまずバズったのだ。そこから「チャーハン稼動」なる言葉まで生まれるほど、各番組で取り上げられた。
そんな中、彼の真骨頂がいかんなく発揮されたのが『くりぃむナンタラ』(テレビ朝日系)の2本のドッキリ企画だった。
3月2日に放送された「もうええわを言わない相方たち」は、番組の看板企画のひとつ。ツッコミ側の芸人(ドンデコルテの場合は小橋共作)が、「もうええわ」にあたる漫才の最後のフレーズを言わなかったときにボケ側(渡辺銀次)がどのように対処するかを検証するドッキリだ。
オチ台詞を言わない小橋に対し、銀次は無言で見つめ、一瞬戸惑いを見せたものの、ほとんど動じず漫才を続ける。
「17年間、何も上手くいかないと、本当に報われるはずがないという思考になっていくんですね。まあ、現代の流行りの言葉で言うとマインドセットってやつですか? その心構えみたいなものが、歪んでいくわけです。
その歪んだ状態のマインドセットになるので、全てを正面から受け入れられなくなるんです。10働いて10もらえる。これが私にとっては、ウマい話に聞こえるんです。これね、本当、義務教育の悪なんですけど、義務教育で『やったらやっただけ』報われるって習うでしょう? お子さん見てたら本当に耳を塞いであげてください。あれは嘘です」
まるで本ネタにあるようなセリフが、淀みなく口からついて出る。ネタバラシされた後も平然として「私はしゃべらせていただきましたけど、彼が終わらせない限りはしゃべれますので」「自由時間が増えた」と言ってのける銀次。圧巻だった。
5月18日の同番組内の企画「仕掛け人マウントバトル」でも銀次の動じなさが際立った。
これは、互いが「自分こそが仕掛け人」と信じ込み、相手を騙そうとする入れ子構造の企画だ。
小橋は、かつてのバイト先で起きたトラブルで、その主犯格に仕立てられてしまい、それを週刊誌に出されたくなければ、800万円を払うように言われていると嘘の相談を仕掛ける。これに対し、銀次は払う必要がないときっぱり断言する。
「初動と足並みだろ、重要なのは。速攻で否定ができるように、会社に今言っておかないと」と理路整然と諭す。
銀次の冷静な正論に対しても頑なにお金を払おうとし、銀次に貸してくれるか尋ねる小橋。それに「あるだけ貸すよ」と即答する銀次。まったく動じない毅然とした態度と論理的思考が見事だった。
一方で、自分が騙す側に回ったときに、弱すぎるギャップも面白かった。
お笑い界を揺るがした「ハイセンス芸人」の提言
漫才では「現実を直視する勇気など無い!」「現実をスワイプ!」と言っていたが、その言葉が自分自身に向き合い、思索を重ねてきたからこそ出てきたものだということがよくわかる2本だった。
そんな銀次が、なにかを「思う」ことが嫌で、絶対に「思う」ことになるから、極力見ることを避けていた、と語った(『アメトーーク!』テレビ朝日系、6月18日)のが、蓮見翔率いるダウ90000だ。
その蓮見は、1月12日放送の『大悟の芸人領収書』(日本テレビ系)「第3回お笑いの未来を考える会」で、以前から度々口にしていた“持論”の決定版とも言える発言をした。
「(ダウで)お笑いを何年かやらせてもらった結果、お笑いもそんなに流行ってなかったです」「さも流行ってるかのような気分になるんですけど、ちょっと外歩いてみたら、誰もお笑いの話してない」
この「お笑い流行ってない」論争を巻き起こしたことは今年上半期の大きなトピックスだろう。
実際は、のちに蓮見本人が言っているように、芸人からのツッコミ待ちの「ギャグ」という側面もあったはずだが、それがあまりにクリティカルだったためか、正面から受け取られることにもなった。
その結果、同番組で3週にわたり放送された、それぞれの世代の芸人がお笑いの未来を愛情深く語り合った「お笑い平成世代と令和世代のすれ違いを埋めようSP」や『チャンスの時間』(ABEMA)流に「七宝vs滝音」「MBTI vsキングオブコント」などの知名度で競い合った「緊急調査!お笑いは本当に流行っていないのか?」など、この発言をトリガーとする企画が各所に派生していった。
蓮見は「俺、流行ってないから、もっと流行らせるためにどうしたらいいか、みんなで考えようよ、みたいな肯定的なあれだったんですけど、冷笑として、その言葉だけ回っちゃって」と総括しつつ、「でも一回気付くのはよくないですか。だってどうせカウンターカルチャーなんだからお笑いなんて。もう一回這い上がる気があるコンテンツのほうが、みんな追いますって」(『ゴッドタン』テレビ東京系、6月13日)と語っている。
お笑いが「流行ってない」のは、爆笑問題・太田光が何度となく公言している「夢」が実現しないことでも証明されているかもしれない。

