先日発売した『STEEP SKI BOOK 2027』では、国内外のアルペン系ブランドを網羅し、有識者や一般スキーヤーによる試乗レビューを多数掲載した。板の性能やターンの質を追い求める中上級者ほど、ぜひ一度覗いてみてほしいのがヒールフリーの世界だ。
旅するように滑る。スキー異文化体験のすすめ
STEEPでも時折紹介しているBCクロカンやテレマークの世界。リフトやヘリコプター、あるいは自らの足で標高を稼ぎ、滑走を楽しむアルペンスキー文化に対して、BCクロカンでは雪原や森を移動すること自体が、手段ではなく目的のひとつとなる。
そのルーツは、北欧で生活の足として発展したノルディックスキーだ。白銀の世界を旅するように進み、その土地や自然、そして会話を楽しむ。そこにはスキー本来の「移動する道具」としての側面がいまも色濃く残っており、本場ノルウェーを中心に、北欧や北米で長く親しまれている。

板のスペックよりも、その日体験したことを語りたくなる。雪の上での、より包括的な遊びとして。スキーの楽しみ方が多様化するいまだからこそ、こうした文化に触れてみるのも面白い。
そもそもBCクロカンとは?
テレマークは聞いたことがあっても、BCクロカンはまだ馴染みがないという人も多いのでは。BCクロカンは、クロスカントリースキーの機動力と、バックカントリーの自由さをあわせ持つスタイル。野山を自由に移動しながら、地形に応じて滑りも楽しむ。スキーを履いてのハイキングやトレッキングに近い感覚で、山岳地帯だけでなく身近な里山でも楽しめるのが特徴だ。海外では「Light Backcountry」や「Light Telemark」と呼ばれることもあり、ヒールフリー文化への入口としても位置付けられている。
日本でも数少ないスキーハイキング専門店として、2025年12月に北海道岩見沢市にオープンした「well-tuned」。オーナー・伊藤孝太氏の語るBCクロカンの魅力や楽しみ方、用具の紹介、そして実際のツアーの様子などもあわせてチェック。
“驚き”ポイントと、日本人向けセットアップ
一方、日本独自のスキー文化として発展してきた技術選。その全日本大会が開催されていた同じ週末、鹿島槍ではSTEEPが初開催となる試乗会イベント「SKI DIG」が開かれていた。
“自然の変化や循環を尊重する”という企業理念のもと、多様なライフスタイルを彩るアウトドア・スキー製品を輸入展開する「ミヤコスポーツ」のブースには、通常のスキーショップではなかなか目にすることのない最新のヒールフリーギアが並び、雪上で試すことができた。

話を聞いてみると、アルペン系スキー中心の編集部員にとっても新鮮な発見ばかり。かつてのBCクロカンといえば、「細板・革靴・3ピン」の組み合わせが定番だったが、近年は道具の進化によって選択肢が広がっている。歩く楽しさ、滑る楽しさに加えてギアを選ぶ楽しさも増し、ヒールフリーの世界はより身近なものになっているようだ。
上達してこそ見えてくる、スキーという道具の原点ともう一つの可能性。ここからは、現場で聞いた内容を基に、その魅力と注目ギアを紹介したい。
ワックスいらずの「鱗ソール」
まず驚いたのが「ゲレンデでの滑走を想定していない」というコメント。近年は日本でもリゾートカービングの人気が高まり、アルペン系のツーリングモデルもゲレンデ滑走を意識した設計が主流となっている。そんななか、一押しのモデルを見せてもらうと、ソールには魚の鱗のような凹凸が刻まれていた。

一般に「ステップソール」や「鱗ソール」と呼ばれるもので、地域やブランドによって呼び方は異なる。Fischerでは「Crown Base」、Rossignolでは「OmniGrip」、Madshus(マズシャス)では「Positrack Base」などと呼ばれている。英語圏では、「フィッシュスケール」や「ワックスレスベース」と呼ばれることも多い。
アルペンスキーがワックスやストラクチャーによって滑走性能を調整するのに対し、こちらは滑走面の形状と前後のゾーン分けで、グリップと滑走を両立する仕組み。前方へは滑り、後方へは引っかかる。初心者コース程度であればシールなしでも登ることができるそうだ。

ラインナップは3種
現存する世界最古のスキーメーカーのひとつ、ノルウェーのMADSHUS(マズシャス)。クロスカントリーの機動力とテレマークのような滑走性を併せ持つPANORAMAシリーズは、軽快に歩ける62mm、数日間のツアーにも対応する78mm、その中間でバランス型の68mmとウエスト幅の異なる3種を展開。
歩きと滑りのバランスが良い「PANORAMA M68」は、フルレングスのメタルエッジと適度なサイドカットを備え、ワックスレスの「Omnitrack」ベースを採用。敢えてアルペン系に置き換えてみるとオールマウンテンモデルのような立ち位置か。滑り派にもオススメの一台だ。



一昔前のBCクロカン板はいまよりウエスト幅が細く(40~50mm)、平地の移動が中心で方向転換がしづらかったそうだが、現在は金属エッジやサイドカットを備えた幅広モデルも増えているそうだ。
日本人向けに最適化された、次世代ビンディング・システム
続いて紹介したいのは、ドイツの「iF Design Award」やアメリカの「IDEA」と並び、世界三大デザイン賞の一つとされる「Red Dot Award」も受賞している最新のビンディング・システム「Xplore(エクスプローラー)」。BCクロカン界の名門、ノルウェーのRottefella(ロッテフェラー)社が開発したもので、同じくノルウェーのMadshusスキーとの相性も良い。
創業者がネズミ捕りにヒントを得て初号機を生み出したことが由来の、ノルウェー語でネズミ捕りを意味する社名も面白いが、驚くのはその軽さ。本体の大部分に高強度樹脂を採用しており、重量はテックビンディングと同等かそれ以下。一般的なアルペンビンディングの約4分の1ほどしかない。欧米と比べて体が小さめの日本人向けに、体重が軽くても浮き上がることなく板と密着する設計になっているのもポイント。

重量 : 374g
¥36,850

先端のピンで接続する
(ソールイメージ)
BCクロカン界の次世代規格とされる「Xplore」は、従来規格の課題であった横方向への弱さと、下りや深雪での不安定さを解消。軽量な本体は12の主要パーツで構成されるシンプル構造。ブーツ側についたピンを固定する「Spring Pin テクノロジー」により雪が詰まりにくく、解除も前方レバーを押すだけと容易だ。また、「ヒールリフター」搭載によりシール登行や長距離移動が楽にできるうえ、BCクロカンだけでなく、テレマークも軽快に楽しめる汎用性も魅力だ。
2種のオプションプレート
さらに、トウ部分のフレクサー(抵抗を調整するゴムダンパー)は用途に応じて交換可能。滑走重視ならハードタイプ、歩行重視ならフラットタイプ。既製品には、バランス型のStandard(スタンダード)タイプが付属している。

滑走重視で、安定性が高いハードタイプ。
テレマークターン時の抵抗も強い
¥1,650

フリー・ピボット機能で可動域は最大。
急坂や長距離ツアー向き
¥1,650
ブーツ先端を金具で挟み込む初期の「Super Telemark(通称3ピン式)」から、幅を広げた「75mm規格」、軽量化した「NNN(New Nordic Norm)」、剛性を高めた「NTN(New Telemark Norm)/BC」、そして最新の「Xplore」へと進化してきたノルディックビンディング。解放機構を持たず、テレマークターンも可能といった違いはあるが、軽量化と滑走性能の向上を目指す流れはアルペン系とも共通している。
日本でもBCクロカン人気の高まりや、テレマークへの新規参入の増加とともに販売台数を伸ばしているそうだ。
▼ミヤコスポーツ 小川義之氏による紹介
職人技が光る、イタリアの最高級レザー製ブーツ
最後に、世界クラスのテレマークスキーヤーからも高い支持を集めるCRISPI(クリスピー)のブーツ。登山靴のような見た目だが、BCクロカン向けに設計された本格的なスキーブーツだ。イタリアの職人が仕上げるレザーブーツに、ブランド独自のテクノロジーを組み合わせたこちらのブーツは、ぜひ一度手に取ってその質感を確かめてみてほしい一足だ。

FUTURA PRO XP GTX®
最高の快適性とコントロール性能を備え、スキー体験を大幅に向上させるバックカントリースキー用ブーツ。ソールはRottefellaの「Xplore」に対応
サイズ:EU36~46(約23.0〜29.5cm)
フレックス: Medium-Soft
重量:950g
¥101,200


本体には、しなやかで足に馴染むフルグレインレザーを採用。かつてのBCクロカン用ブーツはやや頼りない印象もあったが、近年はGORE-TEXや樹脂補強技術の進化により、防水性とサポート性能が大きく向上している。
自然な屈曲を促す「Crispi® EFX BCテクノロジー」や、足首周りを支える「Crispi® Skeleton Frame」も搭載し、歩きやすさと滑走性能を両立している。テレマークブーツよりも軽量で、BCクロカンの自由なスタイルにも適している。
