老舗の味として語られることも多い「継ぎ足しカレー」。何度も火を入れながら味を重ねていくその作り方は、店の歴史やこだわりを感じさせる一方で、食品衛生上のリスクはないのだろうか。「火を入れているから安全」は本当なのか。「継ぎ足しカレー」を提供する飲食店の実態と、食中毒リスクについて専門家に聞いた。
「継ぎ足しカレー」はどう作られているのか
梅雨から夏にかけて、食中毒への注意を高めなくてはいけない季節がやってくる。
この時期に特に警戒したいのが、腸管出血性大腸菌O157などによる食中毒だ。
ただし、食中毒のリスクは夏場に目立つ菌だけではない。季節を問わず注意が必要な食中毒菌として知られているのが「ウエルシュ菌」である。
厚生労働省によると、ウエルシュ菌は人や動物の腸管、土壌、水中など自然界に広く存在する細菌で、カレー、シチュー、煮物、スープなど、大量に調理される食品において食中毒が発生しやすいという。
なかでもカレーは、一度に大量に作られ、時間をかけて冷めていくことも多い。さらに「翌日のカレーはおいしい」と言われるように、加熱と冷却を繰り返しながら食べられることもあるため、ウエルシュ菌のリスクと切り離せない料理でもある。
では、老舗の洋食店などで見かける「継ぎ足しカレー」は、どのように作られているのだろうか。
都内で継ぎ足しカレーを看板メニューとして提供している、ある老舗洋食店の店主は、自己流で編み出したという“継ぎ足しのルール”についてこう語る。
「うちの場合は、毎日残ったカレーに新しいカレーを足して、味をなじませています。量は日によって違うので、硬さや水分量を見ながら調整しています。
継ぎ足しの良さは、サラッとした状態から何度も火を入れていくことで、とろみや甘み、コクが出てくるところです。火を入れて、少し置いて、また火を入れる。そうすることで材料が溶け込んでいきます。
料理というのは、火を入れたときにどう変化するのか、どのタイミングで味が出るのかといった過程が大事なんです。継ぎ足しというのは、ただ古いものを残しているのではなくて、味を作っていくために必要な工程です」
「火を入れているから安全」ではない…専門家が指摘する落とし穴
この「継ぎ足し」を続けるなかで、衛生面で意識していることがあるという。
「火を入れることと、鍋をきちんと洗うことは大事にしています。継ぎ足しカレーというと、鍋を何十年も洗っていないんじゃないかとか、鍋の上にゴキブリが住んでいても気づかないんじゃないかとか、いろいろ言われることもありますけど、そんなことはありません。毎日、鍋の中身を出して洗っています」(同)
店主にとって、継ぎ足しカレーは単なる調理法ではない。店の味を守るための“積み重ね”でもあるという。
「昔は冷蔵庫がなかったわけですから、“もったいない”という意識が今よりも強かったと思います。食材を無駄にしないために、塩分の高い調味料を使ったり、火を入れたりして保存期間を延ばしてきた。昔はそういった知恵が多くありました。
うちのカレーも、管理しながら継ぎ足しているので、家庭で何日もそのまま置いているカレーとは違います。
継ぎ足しカレーというのは、店の歴史そのものなんです。火の入れ方、味の調整、鍋の管理、そういう積み重ねで守ってきた“味”だと思っています」(同)
しかし、こうした「継ぎ足し」について、一般社団法人日本食中毒防止協会の専務理事・中島浩二氏(65)は「必ずしも安全とは言えない」と警鐘を鳴らす。
継ぎ足しカレーも、おでんの継ぎ足し出汁も、『火を入れているから安全』という考え方は大変危険です。
鍋の中が75度を超えると、ほとんどの雑菌は死にますが、ウエルシュ菌は自分を守るためのバリアを張るため、100度でも死にません。
火を止めて温度が下がり、40度から50度くらいの温度帯になると、ウエルシュ菌はバリアを解いて増殖し始めます。つまり、一度加熱しても、冷めていく過程で鍋の中のウエルシュ菌が増えてしまうんです。
さらに、一度冷ましてウエルシュ菌が増えたものにもう一度火にかけると、今度は大量のウエルシュ菌が一斉にバリアを張るため、その過程で、鍋の中に大量のエンテロトキシンという毒素が出ます。加熱と冷却を繰り返すほどリスクは高くなるんです。
ウエルシュ菌が増えた料理を食べると、菌が小腸まで到達し、小腸でもバリアを作るため、エンテロトキシンが産生されます。これによって食中毒が起きるんです」

