ベーシックインフラで衣食住を助け合う
里山ファームで畑仕事をするFC今治スタッフの皆さん。2025年はボランティアを含め延べ298名の皆さんが参加したこうしてスタジアムを中心とした「共助のコミュニティ創り」が始まったのだが、飛田氏たちが目指す「共助のコミュニティ」とは、いったい、どのようなものなのだろうか。
「岡田さんも言うのですが、僕らの考える共助のコミュニティは決して新しいことをやるわけではなくて、その昔『醤油がなくなったから、ちょっと貸して』と言えるような、昭和の頃にはあった顔の見える繋がりの現代版だと思っています」
そうした取り組みのひとつが、スタジアムの敷地内で野菜などを栽培する里山ファーム。地域のさまざまな人の手を借りながら、土づくりからはじめ、収穫した野菜は敷地内にあるカフェで使われたりするそうだ。
里山ファームで農作業をする岡田武史氏「国や自治体が生活に必要なお金を市民に支給するベーシックインカムという制度がありますが、我々が目指しているのは共助によるベーシックインフラです。これは衣食住を保障し合える、助け合える、そういうコミュニティにしていこうという考えです。そうなると、顔の見える関係性で繋がることと同時に、自分たちが食や住にまつわることができるようにならないといけないといった、ある意味スキル的なものが必要になってきます。畑の作業はみんなで協力しあい顔の見える関係を作ると同時に、共助のスキル、ベーシックインフラにつながる経験を積むことにも繋がっています。そうしたことを、ここ数年ようやく始めたところです」
このような顔の見える繋がりを作っているのがスタジアムであり、サッカーなのだ。実は飛田氏は、東京出身でFC今治に来る前はメガバンクのニューヨーク支店に勤務していたが、5年前にFC今治に転職すると同時に今治に移り住んだ。今ではFC今治の試合がある日が一番好きな時間だという。
「たとえアウェイの試合だったとしても、試合の内容や結果によってみんなで一喜一憂します。特にそれがホームの試合だと、アシさとに5000人近い人が集まって、感動を共有できる、すごく心が満たされる瞬間です。先週末も試合があってPK戦の末勝ちました。そうすると皆さん今週は気分がいいと言ってくださる。逆に負けると今週ずっと暗いんだよと言われたり。スポーツは一喜一憂をみんなで共有しあえるんですよね。だからこそ他のことをやろうとなったときに、皆さんが構えずに自然と受け入れてくれるのかなと感じますね」
アシさとの畑でつくったぶどうからできたワインの第一回試飲会FC今治の「共助のコミュニティ」創りの試みは始まったばかりだが、「岡ちゃんワインをつくりたい」という岡田氏の一声から始まったプロジェクトはスタジアム内でぶどうを栽培するところから始まり、今年2月には初めての試飲会が開催されたそうだ。もちろんワインづくりには今治市のワイナリーや地元のボランティアスタッフが関わっている。
そして、岡田氏は2024年にFC今治高校里山校の理事長に就任。同校はサッカーの学校ではなく「エラー&ラーン」をテーマに、誰かが導いてくれるのを待つのではなく、失敗の中から学び、自分で進む道を決められる、そんな人材を育成していくという。
サッカークラブが生み出す、地域の誇りと賑わい
ファンで埋め尽くされたアシさとのスタンド四国はもともと野球が盛んな土地だ。岡田氏がFC今治のオーナーに就任した12年前、四国リーグで戦っている全国的に知名度も高くないFC今治に、地元の人たちはそれほど関心がなかったそうだ。それが12年の間に1つ上のJFLに上がり、次にJ3に上がり、今はJ2で戦っている。
「今治は人口14万人ほどの町ですが『おらが町に四国リーグのサッカークラブがあんねん』というのと、『J3、J2のクラブがあんねん』とでは、皆さんにとってのシビックプライドが全く違うと思っています。カテゴリーが上がることによってどんどん皆さんの期待が大きくなり、さらに365日、なにか面白そうなことをやっているスタジアムができたことで『あそこに行くとすごく盛り上がって楽しい』とか『スタジアムに行くと熱気やパワーをもらえる』と感じてもらえる、そういう歯車がうまく回りはじめたような気がしています」
2026年3月20日、アシさとのすぐ近くに「しまなみ木のおもちゃ美術館」がオープンした。これは木育(もくいく)や世代間交流をコンセプトにした、見て触って遊べる体験型のミュージアムで、全国15ヵ所で展開しているそうだが、今治ではFC今治が経営する。
オープンしたばかりの「しまなみ木のおもちゃ美術館」は、美術館といっても、おもちゃに触れて遊ぶことができると好評取材中、思わず「FC今治ってサッカークラブの運営会社ですよね?」と尋ねてしまったが、これも賑わいを生み出し、顔の見える繋がりをつくって、共助のコミュニティを創るための一環だという。FC今治の共助のコミュニティがどのように広がっていくのか今後が楽しみだ。
飛田氏は、もしもこの取り組みが東京や大阪のような大都市だったら、実現しなかったのではないかと言う。大都市にはサッカーや野球、バスケットボールなどのスポーツのほか、映画やアミューズメント施設などエンターテイメントで溢れている。それでいて隣人の顔を知らない。そうじゃない地域、地方だからこそスポーツを中心にした賑わい、関係性、そこから共助のコミュニティを創ることができるのではないかと。
「やっぱり地方の町でやるからこそインパクトを出せて、それが逆に日本全体、世界につながっていく、そんな感覚があるんです」(飛田氏)
ラオスの人々の心に刺さったように、今治の共助のコミュニティの輪は今治を、愛媛を、そして日本をも飛び出して世界に広がっていくのかもしれない。
text by Kaori Hamanaka(Parasapo Lab)
写真提供:FC今治
