彼は人との会話を、録音して残す人でした
彼は誰かと込み入った話をすると、あとで短い録音メモを残す習慣がありました。約束や相談を忘れないためだと、本人から聞いたことがあります。一覧には友人の相談も、妹の進路の話も、同僚の愚痴まで、几帳面に日付が振られていました。それなのに、付き合って二年になる私とのやりとりだけは、ひとつも見当たりませんでした。
「君のことは、覚えてるから」と彼は答えました
携帯を彼に返しながら、思っていたことを口にしました。「他の人との相談は録音してるのに、私のは一回もないんだね」。彼は少し考えて、こう答えました。「君のことは、覚えてるから」。録音しなくても覚えている、という意味なのだろうと頭ではわかります。それでも私には、覚えておく価値もないと言われたように聞こえました。
