現役時代から子ども相撲大会「白鵬杯」を続けてきた白鵬翔。相撲協会退職後の今、アマチュア相撲と大相撲をつなぐ“架け橋”として描く新たな構想について相撲ライターの西尾克洋氏が迫る。
新刊『7つのキーワードでまるわかり 大相撲 サンクチュアリの深淵』より一部抜粋・再構成してお届けする。
相撲界をめざす子どもたちや、 相撲ファンを増やすための活動を
西尾克洋(以下、西尾) (近年の大相撲では)ファンの楽しみ方が、白鵬さんが現役のころと比べるとかなり異なるものになってきているように思います。当時との違いについてお感じになっている点についてお聞かせください。
白鵬翔(以下、白鵬) 自分が現役時代だったころは、ファンと近い距離でサインしたり、握手をしたり、会話したりできるっていうのは地方巡業のときぐらいでした。年間90日間の本場所との違いがそこにあり、巡業では触れ合いを楽しんでいましたね。
西尾 なるほど。とすると、現在はファンとの距離がずいぶん近くなっているのかもしれませんね。今回、この本の監修を引き受けてくださったのには、なにか白鵬さんの想いがあってのことなのでしょうか。
白鵬 これから相撲を始める子供たちや、 相撲に興味を持ってくれる人たちのためにできることが少しでもあれば、ぜひ協力したいと思ったんです。私は現役時代から「白鵬杯」という子どもの相撲大会を16年に渡って開催してきました。
アマチュア相撲の発展と大相撲の未来は密接に関わっていると考えています。現在、私は国際相撲連盟で顧問を務めていますので、協会退職後は、相撲協会と相撲連盟の両団体の架け橋になれればという思いで取り組んでいます。
西尾 この架け橋という部分が重要で、二つの両団体が独立しているものではないということが、今後本当に大事になってくると思うんですよね。
白鵬 私も会社を立ち上げて1年経ち、世界大会を視野に入れるには、審判やルール面などの適正化の必要性を大きく感じています。そのために「白鵬アカデミー」という組織を立ち上げました。相撲について教えるべきこと、例えば四股一つとっても、6段階のレベルが定義されます。それだけ相撲の技術っていうのは奥深いものなんです。
西尾 相撲の技術を体系化して伝える「白鵬アカデミー」のお話を初めてうかがった際は、大変驚きましたが、この本が相撲普及の一助になれば、執筆した私も大変うれしいです。さて、この本では、それぞれの各項目の左ページに「白鵬のさらにヒト押し!」という白鵬さんのコメントコーナーがありますね。
白鵬 自分が経験してきたことを、分かりやすく伝えられたらと思い、コメントさせていただきました。相撲は「礼に始まり、礼に終わる」といわれるように、力士には、相撲を通じて人間力を高める努力も欠かせないことを意識してお伝えしたつもりです。
世界には、その国独自の相撲がなんと150も存在する!
西尾 白鵬さんは相撲協会退職後に、相撲の世界的な普及活動、さらには相撲のオリンピック種目への採用をめざしているとのこと。大相撲は日本の伝統文化としての位置づけがあるかと思うのですが、世界への普及をめざす理由について聞かせください。
白鵬 16年前に、野球賭博など相撲界にさまざまな問題が起こりました。さらに東日本大震災も発生し、このままでは相撲をめざす子どもたちがいなくなっちゃうんじゃないか、という危機感を覚えたのがきっかけです。そこから白鵬杯をスタートさせました。苦労は多かったですが、4回目くらいから、北海道から沖縄まで全国から子どもたちが参加してくれるようになったのはうれしかったですね。
その後、阿武咲や大の里など、かつて白鵬杯に出場した選手が成長し、大相撲でも活躍するようになり、日本の相撲界への普及についてはある程度結果が出ていると思っています。
いっぽう国際相撲連盟ですが、現在、世界で87か国が加盟しています。
でも、実際に大会に参加しているのは30から35か国にすぎません。それはなぜか。国の支援がないからです。交通費や宿泊費。すべて自腹で来ているわけですから。それがオリンピック種目になればこの87か国が気持ちよく出場できる。そのための国際大会を開催したいというのが私の想いです。 調べてみて分かったことなのですが、世界の150か国は、 その国独自の相撲が存在するんです。
西尾 韓国のシルムとか、モンゴル相撲とか?
白鵬 はい。相撲は観ていてシンプルで、分かりやすい。さらに重要なのがもう一つ。相撲は格闘技なのにダメージが少ないんですね。例えばボクシングだったら数か月に一度しか試合できないですよね。
西尾 年間90日もやる格闘技って相撲くらいですね。
白鵬 でも90日ってさすがに多いと思うんですよ。地方場所もありますし、力士への負担が大きく、いいパフォーマンスが出せないときもある。
西尾 最近はけがで休場している横綱、大関が多く見られますね。日程的、制度的な見直しをアマチュアから先導し、示していけたら、大相撲が参考にしてくるかもしれない。
白鵬 そうですね。プロとアマとでウィンウィンの関係を作りたいと思います。例えば野球だと国内リーグ のほかにWBCもあります。でも相撲だと一つの道しかないんです。そこにもう一つの道を作りたい。
西尾 相撲には、可能性と課題がある、ということですね。白鵬さんが培ってきた経験は、二つの橋渡しに大いに役立つと思います。話は変わりますが、白鵬さんは最近、SNSの活動にも力を入れているようで。YouTubeでの朝青龍さんとの対談は、大きな話題となりましたね。
白鵬 じつは動画を撮影したのは、たまたまでして。その日、初めて二人きりでしゃべる機会があり、話しているうちに、あのころはああだった、こうだったなどと、段々と気持ちが溶けていくじゃないですか。その勢いで、「せっかくだから記念に動画を回そう」ということになりました(笑)。先輩であり、真剣に戦った相手でもあるからこそ、今も尊敬しています。
西尾 ちなみにほかに対談してみたい人は?
白鵬 吉田沙保里さん。あとは柔道の野村忠宏さん。やっぱり子どもたちって強い人に憧れて、そこに興味を持つわけですから。機会があるといいですね。
西尾 その世界を極めた強い方たちとの対談、楽しみにしています。
後編へつづく
文/西尾克洋 撮影/有坂政晴

