相撲協会を退職した白鵬翔は、いま何を見据えているのか。日本文化を世界へ伝える活動、相撲の普及、そして「相撲グランドスラム構想」まで、その壮大な未来図を相撲ライターの西尾克洋氏が聞いた。
新刊『7つのキーワードでまるわかり 大相撲 サンクチュアリの深淵』より一部抜粋・再構成してお届けする。
故郷のモンゴルや、世界にも日本のすばらしいものを伝えたい
西尾克洋(以下、西尾) 白鵬さんは、相撲以外の〝ビジネスパーソン〟としては、 どのような活動をしているのでしょうか?
白鵬翔(以下、白鵬) 私は、日本一のものって、世界一でもあると思うんですよね。モンゴルにも、世界にもこの豊かな日本のいいものを知ってもらいたい。モンゴルは社会主義が終わって30年くらい経つので、こうした取り組みを進めたい。最近力を入れているのが、 同じ伝統文化である日本酒酒造の農口尚彦研究所です。現役時代から好き過ぎて取締役役員になりました(笑)。
2024年に日本の「伝統的酒造り」がユネスコ無形文化遺産に登録されました。これまで歌舞伎役者や陶芸家などが人間国宝に選ばれてきましたが、人間国宝に認定される分野の幅は広がっています。将来、日本酒の杜氏からも人間国宝が生まれるかもしれません。こうした日本の文化から生まれたいいものをモンゴルにも伝えたいです。
西尾 白鵬さんが日本のいいものを広めて、白鵬さんから学ばせてもらって。あべこべですね(笑)。
西尾 白鵬さんにぜひうかがいたいのが相撲の将来についてです。現在新弟子の数が激減していて、いちばん多かったころと比べて約四分の一になっています。どうすれば相撲をしたい若い子を増やすことができますか?
白鵬 相撲協会にいたころから声は上げていたのですが、なかなか上手くいかないところがありました。外に出て、外から改革して恩返したいと考えています。
西尾 アマチュアを盛り上げることが相撲の底上げにつながり、ひいては大相撲が盛り上がり、その相乗効果でアマチュアもまた盛り上がっていく、と。
白鵬 もしアマチュアの世界大会で、ものすごく強い力士が出てきたら、「このチャンピオンと横綱、どっちが強いんだ?」って思いませんか?アマチュアを盛り上げれば、そういったことも出てくると思います。
一つ意見を言わせてもらうと、相撲界は、もっと相撲取り、「力士ファースト」に力を入れるべきだと思います。「お客様ファースト」という考え方がありますが、もっと力士を大事にしていかなきゃって思います。
西尾 相撲の世界普及に向けてのネックとして、例えば肌を出すということに関してはいかがでしょうか?
白鵬 まわしを付けるのが基本だと思いますが、宗教的な問題もありますからね。女性部門もありますし。国際ルールに合わせていくことになると思います。
西尾 選手がまわしを付けること自体にも技術が必要だと思いますが、この点はいかがですか?
「参加者1700人のうち女性が350人」白鵬杯で見えた、相撲普及の新しい可能性
白鵬 先ほどお話しした「白鵬アカデミー」でも教えますし、あとは「ベルトまわし」という簡易的に身に付けられるまわしを開発して、既に実用化しています。そうした努力が実ったのか、前回の白鵬杯では、全参加者1700人のうち、女性が350人も参加してくれたんです。すごく自信になりましたね。
西尾 男性のみのころの参加者1200人ほどですから、凄いことです。それと環境の整備の面についても。最近では各地で土俵が消滅し、相撲が取れる環境が減っているという話もありますが?
白鵬 最近SNSでアンケートを取ってわかったのですが、近所に土の土俵がある環境の選手のほうが大会でよい結果を出していたのです。それほど環境っていうのは大事なんだなと。土俵については、簡易的に設置できるマットを開発していて、すでに白鵬杯でも活用しています。幼児用のものについてはクッション素材を入れたり、安全面も考慮しています。
西尾 環境に左右されないものをハード面から整備していくというのは大事な試みだと思います。そのほかネックになりそうものに対して着手していることは?
白鵬 相撲のガイドブックを英語版・日本語版で制作できればと思っています。最近空手の達人の方とお話しする機会があり、その方のお話でなるほどと思ったのが、「本当の真剣勝負というのは実は時間が短いんだ」ということ。相撲も同じで、早ければ一発か、5秒 から10秒で勝負がつく。そのわずかな時間に力を出し切るには、どんなトレーニングが必要なのかをしっかり伝えられたらと思っています。
西尾 そのガイドブック、すごく読んでみたいです。具体的にはどんな内容が収録される予定ですか? 四股やテッポウのような基本以外もありますよね。
白鵬 例えばまわしの切り方とか、実践的な技術についても掲載したいですね。四股についても、「白鵬アカデミー」で教えるように6段階のレベルが定義される予定です。
西尾 ガイドブックに沿ってトレーニングをしたら相撲全体のレベルが高まっていくはずですね。最後に、白鵬さんが描いている「相撲グランドスラム構想」についてお聞かせください。これは「白鵬杯」とは異なるもの、ということでしょうか?

