
■他者と触れ、人生にとって大切な価値観を知る『トイ・ストーリー』
1作目『トイ・ストーリー』は、多くの人が経験したであろう子ども時代の“学び”がテーマになっていた。それまで「自分中心の世界」に満足し、喜びを感じていた主人公が、「他者と一緒であることの大切さ」を知るからだ。アンディ少年(声:市村浩佑)から最も大切にされてきたカウボーイ人形のウッディ(声:唐沢寿明)だが、アンディが新たなおもちゃであるスペース・レンジャーのバズ・ライトイヤー(声:所ジョージ)に夢中になったことで、これまでのように愛されなくなる現実に直面。

わかりやすい例えなら、弟や妹が生まれ、親がそちらの面倒に集中し、自分は二の次にされるという構図。ジェラシーや劣等感を乗り越え、ウッディは自分が一番でなくてもいいと割り切ることができ、バズと友情で結ばれる。これはまさに子どもが外の社会に触れて知る、人生にとって大切な価値観。いま思えば、この友情がのちのシリーズの原点となる。

■たとえ永遠でなくとも、限られた時間を愛する人と過ごす素晴らしさを説いた『トイ・ストーリー2』
続く『トイ・ストーリー2』(99)では、人生の“究極の選択”が描かれた。カウガール人形のジェシー(声:日下由美)の登場によって、「いつか持ち主は大人になって、おもちゃは見捨てられる」というシビアな未来を知るウッディたち。折しもウッディが博物館で保存されそうになり、どうせいつか捨てられるなら、そのほうが幸せかも…という考えが頭をよぎる。

おもちゃに限らず、人間だって愛する人との間にはいつか別れが訪れる。それならば、時間は限られているとしても、愛する相手と豊かな毎日を過ごすべき。人生の節目に受け止めるべき、そんなメッセージが込められていた。

■別れを受け入れ、新たな未来を手にする『トイ・ストーリー3』
そして『トイ・ストーリー3』(10)は、シリーズでも最もエモーショナルなテーマが示された。前作でも触れられた、おもちゃと持ち主の別れが、アンディ(声:小野賢章)の大学の進学に伴って物語のメインとなったから。それは、ウッディやバズら、おもちゃたちにとっては自身の役割が終わることを意味する。

前作とは違って、ウッディらの意思でどうこうなる問題ではなく、「別れをどう受け入れるか」が試されることに。また、ウッディの目線が、アンディを見送る“親”のそれになっているあたりも、人が大人へと成長した証(あかし)を重ねているかのよう。そうした別れを受け入れた先に、新たな希望の未来が見えてくることも、この3作目は教えてくれた。

■自分にとっての幸せとは?多様な生き方を示した『トイ・ストーリー4』
シリーズとして新たな方向性を目指したのが『トイ・ストーリー4』(19)。これまでは「持ち主との関係」という、おもちゃの役割が軸となっていたのに対し、この4作目では、おもちゃたちが“自立”した存在としてのドラマが濃厚になった。

ウッディは、かつて心を通わせた相手である陶器人形、ボー・ピープ(声:戸田恵子)と再会を果たし、最終的にバズら仲間と離れ、ボーとの新たな人生を選択する。持ち主との関係ではなく、自分にとってなにが本当の幸せなのかを考え、それを実行するという意味で、もはやおもちゃとしての役割は終えた印象も。
■デジタル時代に新たなメッセージを投げかける『トイ・ストーリー5』
このようにシリーズ4作を振り返ると、友だちを作り(1作目)、大切な時間を生き生きと過ごし(2作目)、別れも経験し(3作目)、自立した人生を求める(4作目)という、誰もが共感しやすい人生の成長アーク(曲線)に、“必要とされる”立場のおもちゃたちが、自分の意思で未来を決めるという頼もしい変貌が重なり、唯一無二のシリーズが完成された。

では、自立したおもちゃたちにどんな運命が用意されたら、さらなる成長アークが続くのか?最新作『トイ・ストーリー5』では、おもちゃたちが持ち主の幸せのために陰ながら強力サポートするという、“見守る”を超えて“導く”役割も任されている。

このような彼らの成長ぶりは、人生達観の域に入ったと言ってよさそう。そこに重要なモチーフとなるのが、アナログなおもちゃたちを襲うデジタルの波。いかにもいまどきなテーマが2026年を生きる我々にも身近に感じさせ、「トイ・ストーリー」シリーズにとっても新機軸のメッセージが浮かび上がってくるのである。
文/斉藤博昭
