「相談に乗ってもらえませんか」
彼女とは、仕事の話をよくしていました。ただ、個人的な話を深くすることは多くありませんでした。だから「相談してもいいですか」と言われたときは、珍しいなと思いながらも、同僚として聞くつもりでした。
彼女は「職場に気になる人がいる」と言いました。名前は出さず、話し方も慎重でした。俺が「どんな人?」と聞くと、彼女は「困っているときに助けてくれる人」「話をちゃんと聞いてくれる人」と答えました。その時点では、誰のことなのか決めつけないようにしていました。
けれど、傘の話が出たところで、聞き流せなくなりました。「雨の日に傘を貸してくれたことがあって」と彼女が言ったからです。俺には覚えがありました。前に、傘を忘れた彼女へ自分の傘を渡したことがあったのです。
気づいたあと、怖くなった
さらに彼女は、「休憩室でよく無糖のコーヒーを買っている人」と続けました。その日も、俺の机には同じ缶がありました。偶然で片づけるには、重なるものが多すぎました。
彼女の気持ちが俺に向いているなら、うれしい。そう思う一方で、すぐに返事をする勇気は持てませんでした。もし勘違いなら、自意識過剰な同僚になる。もし本当なら、相談相手として近くにいた俺が、急に相手役の顔をすることになる。そのどちらも、簡単には選べませんでした。
だから俺は、彼女との会話を減らしました。休憩に誘われても用事があると言い、仕事が片づいたあとのやり取りも短くしました。彼女を困らせないためだと考えていましたが、実際は、自分が答えを出す時間を引き延ばしていただけでした。
