静岡県伊東市の田久保眞紀市長が、自身を不信任とした議会を解散したことで行なわれる市議選が10月12日に告示され、前職18人と新人12人の計30人が立候補した。定数は20。田久保市長は次の議会で7人を味方につけなければ2回目の不信任議決による強制失職となるが、7人当選はほぼ絶望的な情勢だ。選挙戦は初日から厳しい言葉が飛び交った。
田久保市長が応援にかけつけたのは…
がけっぷちに追い詰められても田久保市長は意気軒高だ。選挙戦初日の12日午前11時前、JR伊東駅前で仲間が行なった第一声演説に赤いマイカーで応援に乗り込んだ。
「メディアのアンケートには立候補者30人中26人が選挙後に市長の不信任決議案に賛成すると答えました。残る4人は田久保市長に近い立場とみられ、うち2人は回答せず、1人は未定、1人だけが反対と明言しました。
賛成と答えた中にも当選後に態度を変える可能性がある“ステルス田久保派”と噂される候補もいますが、いずれにしても田久保派が7人当選できる可能性は低いとみられています」(地元記者)
アンケートで唯一不信任に「反対」と答えた無所属の新人、片桐基至候補(44)は田久保市長が応援に駆けつけた相手だ。元航空自衛官で新潟県阿賀野市議を1期務めたことがある。市長とは以前からメガソーラー反対運動などで行動をともにしてきた。
マイクを握った田久保市長は、9月定例議会初日に不信任が議決され議案審議ができなくなったとし、「そこで私は考えました。皆さんと約束した改革の火を消さずに前進させるには市議会にも新しい波が必要だと。新しい人材が入って新しい街を作っていく。それが必要だと思って議会を解散しました」と解散の正当性を強調した。
そして「私への賛否。これはほかのところでまた問われることがあるでしょう。その時には皆さんの信を問います」と話し、失職を覚悟していることと出直し市長選に再出馬することを示唆。
「たった1人自分の考えを貫くってほんとに大変なことです。でもやらなきゃいけない。今の世の中に求められてるのはそういう人です」とも力説し、30人中ただひとり田久保市長を支持する片桐氏と、議会から全会一致で不信任された自身の身の上を重ねてみせた。
東大出身の新人候補は「利権ががっつりある中に1人で飛び込んでも…」
この演説を聞く聴衆はわずか10人程度でメディアのほうが多い状況の中、次にマイクを握った片桐氏は「今すぐ田久保市長を引きずり下ろせばこの市政が良くなる、そんな単純な話ではない。根っこはもっともっと深い」と市のこれまでの体質に問題があると主張する。
そこへ片桐氏と同じ航空自衛隊OBという香取良勝・岡山県朝口市議(82)も応援に到着。マイクを持つと片桐氏以上に市長擁護に力がこもり「田久保市長のどこが悪いんですか。学校出てないからああだこうだと。訳のわからんバカ議員が悪口の言い放題。マスコミがそれに乗って、YouTubeで(拡散)。訳のわからんこと言うなと。田久保市長は本当によくやっとる。なぜそれがわからんのか、市民が。少しはわかってください」とぶち上げた。
その演説会場のそばに事務所を置くのは不信任決議案への態度を「未定」と答えた無所属の新人、シュタインマン信子候補(50)だ。東京大学でイスラム学博士号を取得した研究者で海外経験が多く、空き家再生事業などに取り組む起業家でもある。
「田久保さんの支持者が集まる集会で“行政の公正な執行”などをテーマにした講演を行ない、市政改革の必要があるという考えは田久保さんに非常に近い人です」と田久保市長の支持者が話すシュタインマン氏に話を聞いた。
「田久保さんは公共工事を通じた利権構造をリセットする改革を目指し、それが支持されて当選したことは確かです。それで総工費42億円の新図書館建設計画をいったんは止めました。
でも、しがらみと利権ががっつりある中に1人で飛び込んでも変えられない現実は結構あります。彼女の当選で始まった改革の流れが逆回転してハコモノ行政に戻れば、伊東市を立て直すことは難しくなると思い市政改革実現のため立候補しました」(シュタインマン氏)
さらに田久保氏の不信任決議案に対する態度を決めていないとしていることについては、
「学歴詐称疑惑に対し(田久保市長が)市民に説明責任を負うのは当然のことで、そこを負っていないことは私も弁護はできないし、市民の気持ちが離れることを防げていない。
(自分が市議に当選した場合は)市民を代表する立場として、市民の意見を汲んで(不信任への態度を)どうするのかは慎重に決めたいですが、その後に(市長の)適任者がいるのか、その人が果たして当選する可能性が高いのか、といったことが見えないのが現実ですから…」と話す。

