部隊の小さな前進を「都市の解放」と誇張
そもそも「解放」という言葉自体が滑稽だ。ISWの検証によれば、6月中旬時点でコスチャンチニフカ市内にいたロシア兵はわずか100人から250人。6月23日時点では、ウクライナ兵の数のほうが多かった。
7月6日には、ウクライナ軍が市の中央部と北部で活動している位置特定映像まで確認されている。ロシア側が世界に配信したのは、旗を掲げる少人数の兵士の映像だけだ。
しかもその映像は短く切り取られ、兵士たちがその後どうなったかは誰も分からない。車両や砲が市内で運用されている証拠すら一つも出てきていない。
…これのどこが都市の解放なのか。
実態は、ウクライナ陣地の隙間にこっそり潜り込んだだけの、ごく小規模な浸透部隊にすぎない。この誇張はどこから生まれたのか。
プーチン個人が意図的に嘘をついているのか、それとも下から上がってくる情報自体がすでに腐っているのか。
ISWは5月28日の評価で、興味深い事実を明らかにしている。
ロシア軍上層部が、実際の支配地域より広く塗られた地図をプーチンに見せていた可能性が高いというのだ。西ザポリージャ方面の地図は実態よりも大きく塗られ、ゲラシモフの主張とも都合よく符合していた。
参謀総長という軍事の要にいる人物が、正確な戦況を伝えるのではなく、誇張された戦況を演出する側に回っている。
現場は「制圧した」と嘘をつき、司令部はその嘘を地図に描く
現場は「制圧した」と嘘をつき、司令部はその嘘を地図に描き、プーチンはその地図を信じる。情報が上がるたびに嘘が積み増され、最終的にクレムリンの机に届く頃には、現実とはかけ離れた戦況図が完成している。
これこそ権威主義体制の宿命だ。悪い知らせを持っていけば処分される組織で、誰が真実を報告するというのか。
現場は勝利を演出し、司令部はそれを追認し、頂点に立つ独裁者だけが最後まで「勝っている」と信じ込まされる構造がそこにある。
ただし、プーチンを単なる哀れな被害者として描くのは、あまりに甘い見方だ。むしろ悪質なのは、この歪みを政治的な武器として使い倒す姿勢のほうである。
ISWは7月5日の評価で、プーチンがトランプとの電話会談に先立ち、ロシアが戦場で優勢だと西側に信じ込ませるため、コスチャンチニフカ制圧という主張を意図的に西側の情報空間へ流し込んだ可能性が高いと断じている。
7月3日、プーチンはゲラシモフらと会合を開き、全戦線での進軍を誇示した。この会合そのものが、翌日のトランプとの電話会談に向けた演出だった可能性が高いのだ。

