背景を感じさせる芝居
—— 銕三郎を演じて、難しかったところはどこですか。
今回は殺陣のシーンが多かったので、とても難しかったです。「本所・桜屋敷」や『血闘』では、木の棒で戦っていたのですが、今回の「本所の銕」は、銕三郎として初めて刀を抜いて戦う。それも「峰打ち」で、「斬る動き」ではありません。だから斬る動きにも、殴る動きにも見せてはいけない。斬っているように見えてしまうと、相手に与えるダメージも違ってきてしまうし、銕三郎の人物像や作品の流れもブレてしまいます。カメラアングルがどこなのか、どれくらいの寄り・引きで撮られているか。殺陣師の方と一緒に、カットごとにどう見えるかを研究して、細かく計算しました。パズルを埋めていくような感じですね。
—— 殺陣でいうと、敵である悪御家人・横山小平次の取り巻きに囲まれているシーンと、小平次が連れてきた用心棒と対峙するシーンの違いが気になりました。
喧嘩はよくしているかもしれませんが、銕三郎はまだ修行中の身なので、刀を抜いての実戦経験があまりない。小平次の用心棒が現れたシーンでは、見るからに自分より強い相手が出てきたという「恐怖」が銕三郎にはある。その「恐怖」と、どこを突いてくるか分からないという「緊迫感」を出そうと考えました。
単純にアクションをするだけではなく、銕三郎から、相手がどれくらいの存在に見えているのか、それを観客に感じさせるものでなければいけない。当然ですが殺陣もお芝居の一部ですから、そこに背景を感じていただく。そこはとても難しかったです。
——横山小平次役の駒木根葵汰さんと共演されてみて、いかがでしたか。
敵役然としていてくださったのは、本当にありがたかったです。駒木根さんは、すごく繊細に役を作られる方だなという印象を受けました。小平次は悪人ですが、こうなってしまったのには理由があるのかな、と背景を感じさせる。芝居から孤独感や寂しさをすごく感じました。
銕三郎もまた、継母との確執があって、どこか寂しさや孤独を感じている。だからこそ、その二人が対峙するということが、単純な勧善懲悪ではなく、きっちり人間ドラマとして映っているのだなと思いました。
受け継がれる時代劇の美しさ
—— 染五郎さんの好きな映画はなんですか。
『ゴッドファーザー』です。何周か観て、最終的に『ゴッドファーザーPART Ⅲ』が好きです。配信されている「再編集版」や「完全版」ではなく、劇場公開されたバージョンです。マイケルが最後、庭に一人で座っていて、急に心臓発作でバサッと椅子から転げ落ちて死んでしまうのですが、その終わり方が好きですね。PARTⅠは、あくまで「父親ヴィトーと確執がある息子」だったところから始まって、PART Ⅱでドンを継いで、周りが見えなくなって、最後、PART Ⅲで、その因縁が自分に返ってくる。あのスケールの大きさがすごいなと思います。
—— 『ゴッドファーザー』も「引き継ぐ」物語ですが、「鬼平犯科帳」という作品も、染五郎さんの境遇も、どこか重なる部分があるなと感じました。
自分ではあまり意識はしていませんが‥‥。父子・孫とはいえ、違う人間ですし、違う役者なので、演じ方に違いはあると思います。逆にそれを見つけていくのが歌舞伎俳優なのだと感じています。繋いできたものを受け取って、次に渡していくというのは、絶対にやらなければいけないこと。だからこそ、その中で自分はどんな違うことができるかな、と考えるのがとても大事だと思います。
—— 染五郎さんが思う「時代劇の良さ」はどういうところですか。
父も言っていたことですが、「ある種のファンタジー」として観ることができるのが面白いところです。時代劇は、ある意味何でもできてしまいます。純粋に「観ていて楽しい」というのが、自分の時代劇のイメージです。
—— 今回、特別先行版として「本所の銕」と「密告」の2作を続けて観ることができますが、続けてご覧になった感想を教えていただけますか。
同時期に撮影していたので「どう平蔵に繋がっていくのだろう」とワクワクしました。「本所の銕」で、敵役の横山小平次を駒木根葵汰さんが演じられていますが、駒木根さんは「密告」にも盗賊・伏屋の紋蔵として出演されています。同じ役者さんが演じることの必然性を感じましたし、「本所の銕」のラストが、絶対に次が見たくなる終わり方をするので、うまくできているなと思いました。
毎回「鬼平」シリーズを観ていると、長谷川平蔵は、いろんな人と出会って、銕三郎時代に出会った人や助けた人、逆に傷つけてしまった人の因縁が返ってくる。平蔵になってもまだ人間として成長している、平蔵になったからゴールではなくて、いい意味で変化し、進化している。銕三郎時代と平蔵時代を同時に観ていただくことで、よりそれを感じられるのではないかと思いました。
—— 最後に、これから本作を観る方にメッセージをお願いします。
時代劇をあまり観たことがない方、若い世代の方にもぜひ観ていただきたいです。きっと「時代劇って、こんなに新しいものなんだ」と感じていただける作品になっていると思います。
脚本やお芝居はもちろん、映像の美しさ、着物やその着こなしの美しさ、そういった江戸時代の生活様式を感じていただいて、本当に「ファンタジー」として、理屈抜きで楽しんでいただきたい。それが一番ですね。
取材・文 / 小倉靖史
撮影 / 立松尚積
ヘアメイク:川又由紀 / スタイリスト: 中西ナオ
