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信じる人から信じない人までグラデーションがあって当然だと思っています『夜の恩寵』三浦しをん インタビュー

信じる人から信じない人までグラデーションがあって当然だと思っています『夜の恩寵』三浦しをん インタビュー

打ちひしがれて書いた、バンドの物語

──一方、四話目の「金の糸」はがらりと変わって、可愛い話でした。乱雑でマイペースな同級生、ゴンゾーに強引に誘われて彼とバンドを組むことになる六実(むつみ)という少年の話です。これは明るく笑える箇所もある話でした。

 バンドの話はいつか書きたくて、それはそれで考えていたんですよ。「夢見る家族」を書いているあたりで、「次はずっと考えていたバンドの話でいけるな」と思いました。
 暗い話ばかりだと読者も疲れるだろうから、これはおバカな男子高校生の話にしました。この話の「カリスマ」はゴンゾーのように見えるかもしれませんが、この本の中でのカリスマの意味合いでいうと、実は違う人だという……。
 これを書いている時、私が何十年も応援しているBUCK–TICKのボーカルの櫻井敦司さんが急逝されたんです。人生最大に打ちひしがれて、体調が悪くなるわ、でも締め切りはくるわで、なんでこんな時に限ってバンドの話を書いているんだろうと。そういうこともあって、非常に思い入れのある一作になりました。音楽の喜びみたいなものを、切実に考えたり感じたりしながら書くことができたとも思います。というか、書かざるを得なかったですね。
 私はやったことがないんですけれど、やっぱりバンドには憧れますね。なんてきらめいているんだろうと思う。それをなんとか一度は小説で書いてみたかったので、「金の糸」は書いていて、楽しかったし切なかったです。

──ゴンゾーがとてもチャーミングです。

 実はいい子なんですよね。私の中ではゴンゾーはなかなか端正な顔なんですけれど。それから独特のいい声をしているはず。そういうのを考えるのもすごく楽しかったです。

神戸の占い師さんの絶妙な一言

──一方、六実は歳の離れたお兄さんと二人暮らし。どうしてなのか事情を知って「うわあ……」となりました。そして最終話の「夢の子ども」でまた輝久たちが登場します。喜久美は夢見の力を失った後も、賛同者を集めているようですね。

 喜久美はカウンセリング能力というか、相手が何を言ってほしいのかを敏感に察知する人だと思うんですよ。たとえば有能な占い師さんもそうだと思いますね。そういう人はきっと、宗教を立ち上げることもできるんじゃないでしょうか。
 今思い出したのですが、「夢見る家族」は、『小説すばる』の「占い」特集の一作として書いたんですよ。それで、「HiGH&LOW —THE PREQUEL—」を観に宝塚に行った時に、ついでに取材をかねて神戸の占いの館みたいなところに行って、占いをしてもらったんです。その占い師さんがめちゃくちゃ面白くて。長い黒髪の、声の低い魅力的な女性でした。まず「悩みはなあに?」と訊かれて、「やる気が出ないんです」と素直に言ったら、「あら、いつから出ないの?」と訊かれ、「七年前くらいからですかね」と言ったら「長いわね」って。それから私が選んだ何枚かのカードを見て「七年前、あなたに悪霊がとりついたのね」って。「え!? それは何の悪霊なんですか?」って訊いたら、「行きずりの悪霊よ」。

──行きずりの悪霊……(笑)。

 びっくりして「どうしたらその悪霊は離れてくれるんですか?」と訊いたら「もう離れているから大丈夫」。「じゃあ、私のやる気が出ないのはどうしてですか?」と訊くと「それはいつものことだから気にしなくていいの。やる気が出ないのが普通と思って」と言われました。それで私、すごく心が軽くなって。その時から、やる気が出ないのが普通なんだなあと思っています(笑)。この時、占い師さんってカウンセラーみたいだなって思って。この取材が「夢見る家族」に活かされていますね。

──「やる気が出ないのはいつものこと」と言ってほしかったんですねえ。

 無理にやる気を出すのは辛いから、気にするなって言ってほしかったんでしょうね。とはいえ、「そのままの君でいい」と言わないところも上手いですよね。もしそう言われていたら、私は「いいわけねえだろう」となっていたと思うので。「やる気が出ないのが普通よ」という言い方って絶妙ですよね。

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