俳優として活動する一方、“虫プロデューサー”としてYouTubeチャンネル「ひよりの虫日記」などで虫の魅力を発信している片田陽依さん。養老孟司氏と対談するなど、その活動は広がりを見せている。
そんな片田さんは、虫を見るとよく「かわいい」と口にする。ゴキブリは嫌われ、ホタルは愛される。同じ虫でありながら、その見られ方は大きく違う。片田さんは、そうした虫へのまなざしの差に、人間側の都合や思い込みがあると語る。虫の「かわいさ」とは何か。嫌われる虫にも、愛される虫にも同じように目を向ける片田さんに、虫を知ることの意味、そして昆虫が減っている現実について聞いた。〈前後編の後編〉
芋虫とゴキブリ、虫の中にもある好感度
──片田さんの活動を見ていると、虫を好きになってほしいという気持ちはもちろん、まずは虫のことを知ってほしいという切実な思いを感じます。
片田陽依(以下同) みんなに虫をポジティブに思ってほしいというよりは、虫が今、世界各地で減少しているという現状をちゃんと認識してほしいという思いがあります。でも多くの人は虫が嫌いだから、そもそも興味を持たない。だから虫の可愛さや魅力という側面から伝えていけば、人の心に届くものもあるんじゃないかと思っています。
──この虫は受け入れられやすい、一方でこの虫は嫌がられやすい、みたいなのはありますか。
私の周りの虫好きの女性を見ていると、芋虫とか、丸っこいものが好きな人がすごく多いんです。芋虫って、みんな赤ちゃんなんですよ。これから蝶や蛾になる前の姿で、お世話してあげないといけない。丸っこくて、赤ちゃんのような存在に対する「かわいい」が、そのまま虫にも向かっているんじゃないかなと思います。
一方で、男の子はカブトムシやクワガタみたいな、フォルムがかっこいい虫に惹かれることが多い印象がありますね。
──ゴキブリなんかは、やっぱり家の中に出るから嫌われるんですかね。
要は、人間のテリトリーの中に入ってこられるのが嫌なんだと思います。たとえ人間であっても、勝手に自分の家に入って来られたら嫌じゃないですか。ゴキブリも、家に入ってくる習性がなかったら、ここまでは嫌われていなかったと思います。
人間が嫌っているだけで、ゴキブリもひとつの生き物ですし、地球の先輩でもあるので、もう少しリスペクトを持ってもいいんじゃないかなと思います。
──虫そのものというより、人間側の見方の問題でもある。
そうですね。小さい頃は苦手じゃなかった虫でも、大人のリアクションだったり、メディアでの伝わり方だったり、いろんな要因ですり込まれていく部分はあると思います。だから、知らないまま嫌うのではなくて、どういう生き物なのかを知ってもらうことが大事だと思っています。
昆虫減少の背景にある、人間の“無知”
──東京の中でも、虫がいる場所にはグラデーションがあるんですか。たとえば僕の近所には井の頭公園があって……。
井の頭公園はめちゃくちゃよく行きます! とてもいい公園ですよね。冬は虫が少ないじゃないですか。でも井の頭公園には、フユシャクという冬にしか出てこない蛾がいるんです。メスには翅(はね)がなくて、変わった姿をしているんですけど、それが井の頭公園の川沿いに本当に多くて。冬になると虫好きはみんなあそこに集まるんです。すれ違う人が「あ、この人も虫好きだ」ってわかるくらい。
──そうなんですね。井の頭公園って人も多いので、虫好きが集まっているイメージはなかったです。
人が多いと生息しにくい面はあるんですけど、井の頭公園は落ち葉などを全部さらってしまわずに、そのまま残している場所も多いんだと思います。東京の公園って、自然っぽく見えても、落ち葉がきれいに片づけられていたり、虫にとってはあまりいい環境ではない場所もあるので。
──たとえば虫の中でも、ホタルはかなり特別扱いされていますよね。光っていてきれいだから、みんな好きというか。
ホタルだけが優遇されているというか、虫の中にもルッキズムみたいなものがあるのは不思議だなと思います。ホタルは逆に優遇されすぎて、養殖したホタルを放して観察するようなこともあるんですけど、あれは生態系にかなり悪影響を及ぼしていて……。
──え、そうなんですか。
ホタルは地域によって光り方のリズムが違ったりするので、繁殖干渉になって、本来そこにいた在来のホタルが数を減らしてしまうこともあるんです。何の悪意もなくやっていることが、生態系にかなり影響することがあるんですよね。
──よかれと思ってやっていることが、逆に生態系に悪影響を及ぼしてしまう。
そうなんです。虫って、どこに放してもいいと思っている人もいるかもしれないですけど、扱い方を知らないと、生態系に大きな影響を与えてしまいかねない。昆虫が減少している理由のひとつには、人が無知であることも大きいと思います。

