彼女の手がける「Re.muse」のスーツは、着る人に自信を与える”ヴィクトリースーツ”として知られ、幅広い世代から愛されています。
これまでオーダーメイドスーツを作り続けてきた勝様が、13年目を迎える今夏より既製服の販売をスタートしました。
その理由とは? その背景とモノづくりへのこだわりを伺いました。
ずっとお客様から要望があったインナー

ーー:まずは12周年おめでとうございます。今、このタイミングで既製服をスタートされたのはなぜでしょうか?
勝様(以下敬称略):スーツを仕立てているときから、お客様に「インナーはどうすればいいですか?」と本当にたくさん聞かれてきました。
ただ、私は“ある目標”を達成してからにしようと決めていたんです。
それが叶ったことで、ようやく取り組めるタイミングになりました。
ーー:その“ある目標”というのは?
勝:私がこの仕事を始めた頃、女性テーラーはほとんどいなくて、女性がオーダースーツを作る文化もありませんでした。
だからこそ、自分に誓ったんです。
“お客様の半数が女性になるまでは、次のステージに進まない”と。
今回それを達成できたことが、既製服という新しい挑戦につながっています。
メーカーさんとの運命の出会い

ーー:アパレルメーカーさんとの出会いもあったとか。
勝:この業界に入ったときから“このハンガーを使いたい”と思っていたイタリアのメーカーがあり、ご縁があって日本の代理店の方とつながることができたんです。
Re.museのブランドカラーであるボルドーにロゴを入れてオリジナルを作れる、そこからすべてが始まりました。
しかも担当の方は、私が10代の頃から憧れていたブランドの方。
OEMは基本的にしない会社だったので無理だろうと思っていたのですが、想いを伝えると『じゃあ作ってあげるよ』と快諾いただいて。
一気に実現へ進みました。
もちろん簡単な道ではなくて、私が“こうしたい”とお願いしても「それはやめておいた方がいい」と止められることもありました。
でも、そのやりとりがむしろすごく安心につながりました。
互いに強いこだわりを持ちながら、真剣にものづくりに向き合える関係ってなかなかないですよね。
だからこそ、今回絶大な信頼を寄せられる会社さんと一緒に形にできたことを、とても嬉しく思っています。
ーー:普通の洋服とスーツのインナーとの違いは?
勝:アームの部分がもたつくと本当に仕事に支障が出るんです。
袖がドルマンになっていたりすると、動きづらくて気になってしまう。
実はアームホールって着心地に直結していて、ジャケットの場合はたった2mmの違いでも体感が変わるんです。
ただブラウスを作るだけなら簡単ですが、ジャケットを羽織ったときの収まりや、ウエストインしたときとアウトで着たいときの丈感など、細部まで考えなくてはいけない。
私たちはスーツを1mm単位で仕立てますが、既製服は1〜2cm単位で調整するのが基本。
そこをどう折り合いをつけるか、メーカーさんとの合致点を探すのにとても苦労しました。

ーー:このブラウスなんかは袖がふわっとしていますね。かわいい!
勝:触っていただくとすぐにわかるんですけど、このオーガンジーは驚くほど柔らかくてなめらかなんです。
だからジャケットを羽織っても腕がすっと通って、全然もたつかない。
でも同時に、肩のふわっとしたシルエットはきちんと残したい。
常に女性の体を綺麗に見せることを意識しているので、その両立が本当に難しかったんです。
しかもこのお花は1つ1つ手付けなんですよ。
