永田町取材歴50年超の政治評論家・小林吉弥氏が「歴代総理とっておきの話」を初公開。今回は高市早苗(下)をお届けする。
外交問題に発展した“アドリブ発言”の波紋
「高市早苗首相というのは、本音がどこにあるのか、まったくつかめない。これまで数代の首相に接してきたが、それぞれ癖はあってもどこかで“正体”が見えてきたものだ。ところが、彼女は本音がつかめず、どこまでも正体不明だ」
昨年秋に行われた自民党総裁選の決戦投票で、小泉進次郎ではなく高市に1票を投じたとされるベテラン議員は、こう言って半ば苦笑した。
高市は政権の座に就く際、それまで26年間の長きにわたり協力関係を維持してきた公明党に、かねてからのタカ派的な姿勢を批判され、一方的に連立離脱を突きつけられた。ならばと独断的に、日本維新の会との連立合意にこぎ着けたが、その後も高市政権は「独断、独裁」の色を強めていった。
総裁選勝利の立役者でもあった自民党の麻生太郎副総裁にも、高市は事前に衆院解散を明かさず、自民党参院側から「どだい不可能な話」とされ、初めから無理筋だった今年度当初予算案の「年度内成立」に、強いこだわりを見せた。
さらには、首相就任直後の所信表明演説で「台湾有事」に言及し、中国を硬化させた一件なども、じつはそもそもの原稿にはこうした文言がなく、高市の“アドリブ”だったともっぱらなのだ。
「とにかく、関係者が問題点整理のために“ご進講”したくても、ほんの数分しか会わず、話の深掘りができないらしい。官僚らとのやり取りを含めて、多くは公邸でのFAX経由と、こうしたことも異例だ。一方で、類いまれな意志の強さは感じるのだが…」(前出・自民党ベテラン議員)
【歴代総理とっておきの話】アーカイブ
「政治は夜つくられる」会食嫌いの首相に迫る限界
これまでの歴代首相は、国会審議がある場合は秘書官らから朝の“答弁レク”を受けるのが慣例化していた。対して高市は、これもよほどのことがない限り秘書官らと直接の会話をせず、FAXによる文書で済ませることが多いようである。
また、官邸での執務が終わると、おおむね午後7時半くらいには資料を抱えて隣接する公邸に帰ってしまい、「明日までに勉強しておかなければならないことが山のようにある」と、時には明け方近くまで勉強、これ勉強というわけなのだ。
しかし、これでは自民党の頭として、党内の意思疎通は図れない。また、トップリーダーに接触を試みようとする議員も、遠のいてしまう。かねてより「政治は夜つくられる」との言葉もあるように、会食で相手の腹を探ることも必要で、先々、まさに「高市政治」が行き詰まってしまう懸念がある。
ましてや、7月17日が会期末の今国会と秋の臨時国会では、憲法改正、皇室典範改正、物価高騰対策などの難題が目白押しで、下手に躓けば政権に「赤信号」点滅が待つことになる。
こうしたことを背景に、いささか目が覚めたか高市は、4月に入ると自ら「私はメシ会の苦手な女だ」としていた「孤高」の姿勢を一変させた。
麻生副総裁、鈴木俊一幹事長ほか自民党参院の幹部など自民党執行部と、官邸での昼食、公邸での食事会を開くなど、突然、党内融和へ「ギアチェンジ」したのである。
政治部デスクは、こう言っていた。
「数少ない側近とされる木原稔官房長官、尾﨑正直、佐藤啓の両官房副長官らが、あまりの孤立ぶりを見かねて高市首相を促し、ようやく重い腰を上げたようです。ただし、歴代首相がこなしていた料亭やホテルでの“外食”は、ほとんど行わない異例のスタイルだった。
また、食事中に政策の話がほとんど出ることはなく、『意思の疎通どころではなかった』と、拍子抜けで席を後にした参加者が多かったそうだ。5月中にはほとんどの党幹部らとの会食が一巡することから、早くも『また元の木阿弥で、籠もってしまうのではないか』との声も出ている」
