『アイカタ』はみんなが「ああだこうだ」言える健全な番組
—自分の本当の姿は、自分と全く異なるアイカタを語ることで初めて見えてくると。登場するみなさんが、最初と最後でインタビューの言葉の解像度が変わっていくというのはそういうことなんですね。
今まで言葉になっていなかったことが「そういうことか」と腑に落ちる体験って、大人になるとそうそうないと思いますけど、「職場のあの人もアリなんだ」とか「ウチの夫もそんなに悪くない」とか、「もっと素直にアイカタを褒めるべきだな」とか、何より私自身がこの歳で新しい考え方に辿り着いているんですよ。
—そういう意味で、芸歴も先輩にあたる加藤さんにバンバン反論できる新しいアイカタ・近藤春菜さんの存在は今シーズンの重要なファクターですね。
『アイカタ』は元めちゃイケADが妻を撮り、この私が加藤さんの話し相手をするというすごく原始的な形で始まり、3年目を迎え徐々に洗練されメジャー化されてきた象徴が春菜さんだなと。VTRを見た加藤さんがひとつの“読み解き”を提示することに対して、今までそれを“聞いて”くれていたのがNHKのアナウンサー。春菜さんはそこからさらに踏み込んで、別の「読み解きB」を出してくれる。
時に2人は言い合いになるんだけど、そこには確実に多様性が生まれている。テレビの健全な形って意外とそういうところにあるんじゃないかって。テレビを見ながら、ああだよねこうだよねって誰かと言い合いをしてもらえる番組のほうがいんですよ。だって「賛」も「否」もないところにテレビの未来はないじゃないですか? “無風”ではダメ、そこからは抜け出さないと。
—加藤さんと春菜さんの会話に、視聴者も自分の意見を重ねられる構造になっているんですね。
毎回「あなたのアイカタは誰ですか?」っていうフレーズから始まってるのは、そういうムーブを期待する30分だから。VTRを見れば何かを考えるだろうし、加藤さんの“読み解き”を聞いて考え、春菜さんの「読み解きB」を聞いて考え、「いや俺はこう思う」「いえいえ私は…」というみなさんの「読み解きC」から多様な世界が広がればと思います。
ちなみに今シーズンでは早くも第2回放送の梨農家の回で加藤さんと春菜さんが「照れ屋だからとアイカタを褒めない男性」の是非で対立。その意見の食い違いは第3回(7月14日放送予定)にも尾を引いています。
「水戸の伝説の不良」が見せた、素直になれない昭和の男
—第3回は茨城県水戸市の伝説の不良(57歳)が登場します。
まさに「照れ屋論争」のど真ん中(笑)。『ビー・バップ・ハイスクール』(※注2)を地で行く夫は昭和の男で、「男として恥ずかしい」と照れて長年連れ添った妻に素直になれない。同世代である加藤さんは夫に理解を示し共感するも、春菜さんは令和の物差しで加藤さんに異を唱える。「その価値観はもういらないです」ってバッサリ(笑)。
加藤さんの意見の本質としては、口先だけで毎日毎日ジローラモみたいに女性を褒めるのではなく(笑)、ちゃんと言葉にリアリティを持たせたいと言ってるんですよ。もちろん春菜さんもそれは理解した上での「ああだこうだ」になってると思いますけど。
—スタジオパート(番組枠)もすごくライブ感のある現場なんですね。
今は番組そのものが生きている感じ、成長してる感じがします。番組っていい時は、それ自体が細胞分裂する感じで、幹が伸びて葉っぱがどんどん増えているような。各VTRのディレクター陣の取材力もめっちゃ今、伸び盛りな感じがします。
—今まで登場する方は圧倒的に幸せなアイカタが多かったと思うのですが、多様性という点では今後アイカタ同士が揉めてるとか、夫婦であれば離婚しそうとか、そういう2人が出てくる可能性もありますか?
予告するわけじゃないけど、100%ポジティブじゃない組も出てくると思います。アイカタって私たちが勝手に「仲がいい幸せな2人」って決めつけてはならないはずで。
たとえば極楽とんぼだってめちゃめちゃ断絶してる時期があって、「当たり前じゃねえからな」(※注3)を経て、その後おじさん2人が青春取り戻すみたいにイチャイチャして、そして今度は山本さんも結婚して新たなアイカタができて、今加藤さんとのコンビ仲はどうなんだろう? めっちゃ“無風”かも…(笑)。この世の全てのアイカタにもいろいろな山や谷があって当然ですからね。
後編へつづく
※注1…8人組ボーイズダンス&ボーカルグループMAZZELのYouTubeチャンネル 「MAZZEL ROOM #まぜべや」
※注2…1983年から2003年まで『週刊ヤングマガジン』で連載された日本のヤンキー漫画の金字塔
※注3…2016年に『めちゃイケ ゴクラク少年愚連隊』で加藤浩次が、10年ぶりに地上波に戻ってきた相方の山本圭壱に対して積年の思いを叫んだ一節
取材・文/西澤千央 撮影/井上たろう

