
そして「アバター」シリーズのパッケージの魅力といえば、大ボリュームの特典ディスク。今回発売されるパッケージにも、メイキング映像やドキュメンタリー映像など3時間を超える映像特典を収録し、最新映像テクノロジーを駆使した舞台裏がたっぷりと味わえる。そこで本稿では、「アバター」シリーズ以外にも 4作の視覚効果でオスカーに輝いたキャメロン監督作品の映像技術の進化を振り返りながら、その革命の歴史と集大成『ファイヤー・アンド・アッシュ』の魅力まで解説していきたい。
■シリーズすべてがオスカー受賞!世界最高峰の映像体験ができる「アバター」
舞台となるのは、22世紀。資源の枯渇に直面した人類は豊富な資源を持つパンドラに進出。この星の環境に適合するため、先住民ナヴィと人間のDNAを組み合わせた人工の肉体“アバター”に意識を送り、採掘活動を行っていた。アバターでナヴィになった元海兵隊員ジェイク(サム・ワーシントン)は、森で勇敢なナヴィの女性ネイティリ(ゾーイ・ザルダナ)と出会う。やがて、利益のため環境を破壊する人間の愚かさを痛感したジェイクは、ナヴィの戦士として人類との戦いを挑むことになる。
しかし、不毛な火山地帯で暮らすアッシュ族のヴァラン(ウーナ・チャップリン)は、同じナヴィでありながら、パンドラの支配を目論んでいた。恐れしらずの元海兵隊大佐クオリッチ(スティーヴン・ラング)と手を組んだヴァランは、破壊や略奪を繰り返しながらジェイクたちを追い詰めていく。

一作ごとに映像テクノロジーの粋を極めた映像体験で注目される本シリーズ。まず度肝を抜かれるのが物語の舞台となるパンドラの世界観だろう。地球に似た環境を持つこの星を、キャメロンは存在しうる地として環境から生態系まで細かく設計。生き物たちには色や形状からギミックまで解剖学的リアリティを追求し、無数の植物がひしめく森はルールに基づいてコンピュータが生成する生態系シミュレーションで生み出された。動植物のほか、強い磁場によって空に浮かんだ岩山など驚異の世界をリアルな映像で描いた体感的映像が観る者を圧倒している。

そんな本作で公開前から注目されたのが、ジェイクをはじめとする先住民ナヴィの描かれ方である。身長約3m、ネコ科を思わせる目や鼻立ちの人類だ。ナヴィはCGキャラクターだが、目の動きや細かな表情の変化まで俳優の動きをそのままデジタル化する「パフォーマンス・キャプチャー」により、人が演じているようなリアルな質感を実現した。俳優が素顔で演じる地球人キャラクターとのふれあいを含め、息吹すら感じる姿に感情移入してしまう。
■B級映画で映画界に潜り込んだキャメロンのキャリア
パンドラやナヴィの描写は映像表現を次のレベルに引き上げたまさに“映像革命”だが、キャメロンはこれまでも映像表現の可能性にも挑んできた。ここからは、そんなキャメロンの「こだわりと挑戦の歴史」を、フィルモグラフィーと共に振り返っていきたい。

キャメロンが初めてその名をスクリーンに刻んだのは、1980年のこと。20代半ばのキャメロンは、「スター・ウォーズ」人気に便乗した『宇宙の7人』の現場にもぐりこみ、セット作りやデザインワーク、視覚効果となんでも屋として活躍した。その後、プロダクション・デザイナーや第2班監督としても才能を発揮したキャメロンは、その腕を買われ『殺人魚フライング・キラー』(81)で監督デビューを果たす。本作で俳優たちと海に潜り難破船で撮った水中シーンの経験は、後の『アバター:ウェイ・オブ・ウォーター』(22)などへと繋がっていく。

続くキャメロンの出世作『ターミネーター』(84)はスリル満点のアクションが話題を呼んだ。人類とコンピュータが戦闘を繰り広げる未来世界を抜群のスケール感で描いたが、製作費は約640万ドルと当時の一般的なメジャー作品の約半分の低予算作品だった。そこでキャメロンは、伝統的なスクリーンプロセス(ミニチュアや俳優の背後のスクリーンに映像を投影する合成手法)を効果的に使って迫力ある映像を生み出した。続く『エイリアン2』(86)ではこの手法とコンピュータ制御のモーション・コントロール・カメラを組み合わせ、キャメロン作品初のアカデミー賞視覚効果賞に輝いた。
■誰も観たことのない映像を作る、キャメロンの挑戦の歴史
そんなキャメロンが見たことのない映像表現に挑んだ革命作が、異星生命体との遭遇を描いた『アビス』(89)である。本作の見せ場の一つが、触手のように伸び人の顔の形に形状を変える海水の描写だ。CGによる視覚効果を担当したILMは、オスカーを獲得。「アバター」シリーズでも重要なポジションを占めている水が、キャメロンの映像革新の原点だったのだ。その成果を目にしたキャメロンは、続く『ターミネーター2』(91)でCGによる液体金属のターミネーター、T-1000を登場させた。自由に形状を変えるキャラクターアニメーションだけでなく、スタントのワイヤー消しなどCGは視覚効果の要として使われた。

続くスパイアクション『トゥルーライズ』(94)には、配給した20世紀フォックスのスタジオ・エグゼクティブとしてジョン・ランドーが参加。プロジェクトを統括し、キャメロンとのパートナーシップが始まった。なお2人の出会いや共同作業については、今回発売されるパッケージ収録の特典映像「ジョン・ランドーへ」のなかでキャメロンが熱く語っているので注目だ。「アバター」以前の集大成となる『タイタニック』(97)で、キャメロンは資料に基づいて1912年に起きた海難事故を徹底再現。衣装、小道具を含めた妥協なきこだわりはそのまま「アバター」シリーズに繋がり、ミニチュアとCGを組み合わせた視覚効果もオスカーに輝いた。

■観る者全員を驚かせた「アバター」の3D技術
そして『タイタニック』から約12年の沈黙を経て、2009年にシリーズ第1作『アバター』が公開となる。公開にあたり世界を最も驚かせたのが、やはりデジタル3Dによる立体映像であろう。左右の目の視差を2つのカメラでシミュレートして立体感を出す3D映画は、1950年代や80年代にも流行。2000年代には、デジタルテクノロジーの進歩によって、現在も3D映画の主流になっている2D映像を3Dに変換する“疑似3D”でも違和感のない立体感が味わえるようになった。

しかし自然な立体映像を求めたキャメロンは、『アバター』撮影にあたりネイティブの3D撮影システムFusionカメラを開発した。このシステムが画期的なのは、従来は固定されていた左右のレンズを可動式にしたこと。近くを見ると寄り目になり、遠くを見ると平行になる人の目の動きをシミュレートすることで、自然な3D映像を実現した。162分~190分超という長い上映時間のシリーズにもかかわらず、目の疲れをあまり感じさせない自然な視聴体験を可能にしたのもFusionの功績だ。

本シリーズでキャメロンが志向した立体感は、「飛び出す」のではなくパンドラを「目の当たりにしている」臨場感。ギミック重視ではなく体験重視の姿勢は、多くのリピーターを生み出した。『アバター』では森や空、『アバター:ウェイ・オブ・ウォーター』では海にフォーカスしていたキャメロンだが、『アバター:ファイヤー・アンド・アッシュ』では森、空、海、さらに人類の拠点としている工業地帯のような街も舞台になっている。シリーズ集大成というべき映像世界が味わえるのも最新作の魅力なのだ。
■ファン必見!超ボリュームの特典映像で、世界最高峰の映像の完成過程を目撃
ここからは今回発売される『アバター:ファイヤー・アンド・アッシュ』の特典ディスクについて、さらに詳細を紹介していきたい。3時間半を超える豪華な映像特典が収録されているなかでも、特典の目玉となるのが制作の裏側を追った「作品の舞台裏」だ。ストーリーやキャラクター、デザイン、撮影、アクション、編集や視覚効果、音楽など全13のパートに分けてメイキング映像やインタビュー、デザイン画など豊富な資料で映画の裏側を紹介。『ファイヤー・アンド・アッシュ』のすべてがたっぷり味わえる。

ストーリー作りの裏側を明かす「紡がれる物語」では、キャメロンやランドーのほかストーリーライターや脚本家、SF作家が集合。壁一面に貼られた白い紙に、キャメロンが意見を書き込む姿も。「アバター」が何作で完結するか二転三転したり、長い制作期間の間の心境の変化にも言及。コンセプト・アートや完成シーンと脚本の比較など、ストーリーやキャラクター作りの過程やキャメロンたちが込めた想いがひしひしと伝わってくる。

「ヴァランとマンクワン族」では初登場の強敵ヴァランのキャラクターやバックグラウンドを紹介。キャメロンらスタッフ、ヴァランを演じたウーナ・チャップリンによる解説のほか、チャップリンのオーディション映像、独特の重心の取り方や歩き方のポイントなどキャラクターを多角的に分析。強烈なルックスだけでなく、チャップリンのすさまじい没入演技もヴァランの要素だと思い知らされた。「パフォーマンス・キャプチャー」では、スタッフインタビューのほかキャプチャスーツを着た俳優たちのウォーミングアップ、撮影風景を通して本作の要であるモーションキャプチャを解説。キャメロンは「演技にない表現は加えていない」と語っているが、撮影時と完成シーンの比較映像を見ると確かに違うのは外観だけだと納得だ。
本作と一般的な映画作りの違いをもっとも実感できるのが「編集とバーチャルカメラ」だろう。通常編集は撮影を終えてから始まるが、本作ではまずCG化するナヴィ役の俳優の演技を最大16台のカメラであらゆる角度から撮影。そのなかから使用するテイクを選んで編集したあとに、その映像をもとにバーチャルカメラを使いながら生身の俳優の芝居を撮影する。この複雑なワークフローがわかりやすく紹介されており、3D映画の仕組みや映像作りのポイントを解説した「3Dの技術とインパクト」と共に「アバター」ファンならずとも映画好きなら一見の価値のあるコンテンツといえる。メイキングを観たあとに本編を見直すと、また違った味わいが楽しめるだろう。

特典映像でもう一つの注目コンテンツが「ジョン・ランドーへ」だ。本作を制作中の2024年に死去したランドーは、キャメロンと二人三脚で「アバター」シリーズを作り上げてきたキーマン。キャメロンはじめ、「アバター」出演者やスタッフほか多くの関係者が彼との思い出をふり返る。プライベートを含めたキャリアと共に多くの写真や映像が紹介されており、スパイダーの扮装をしてスタジオを駆け巡るおふざけ映像など貴重なものも少なくない。ほかにもパンドラに侵攻する地球の巨大企業RDA(資源開発機構)の教育映像のスタイルでパンドラを紹介する「RDAのオリエンテーション」、予告編やマイリー・サイラスが歌う「Dream As One」のMVと盛りだくさんの内容だ。
一作ごとに最新映像テクノロジーを盛り込んだ映画作りで、映画史にその名を刻み続けている「アバター」シリーズ。2029年に『アバター4』、2031年には『アバター5』公開とすでにタイムテーブルが発表され、いまから心待ちにしているファンも多いはず。「アバター:ファイヤー・アンド・アッシュ ブルーレイ + DVD セット」を味わいながら、キャメロンは次にどんな映像革命を見せてくれるのか、予想してみるのも楽しいだろう。

文/神武団四郎
