部下が行うあらゆる仕事に目を光らせ、口を出すリーダー。これは理想的なリーダーのありかたではない。そう説くのはコンサルタントの田尻望氏である。
書籍『無言のリーダーシップ 付加価値を生む仕組みのつくりかた』より一部を抜粋・再構成し、問題に直面したときに部下たちが協力し、「どうすればできる?」を自発的に話し合うことができる職場のつくりかたを紹介する。
アンケート形式で4要素を見極める
部下の「できない」の正体を4要素で分析し、見極めるための手っ取り早い方法がアンケート形式だ。もちろん、部下が業務に取り組んでいる様子を近くで観察し、じっくりと分析することができればベストだが、個別に時間をとれないこともあるだろう。
具体的にどのようなアプローチをとれば、多忙なリーダーが部下一人ひとりの「できない」を見極められるのか、実際にあったケースをもとに解説する。
私が助言した事例では、リーダーHさんは、新規プロジェクトが思うように進まないことに頭を抱えていた。新サービスを軌道に乗せる花形のプロジェクトにアサインされた部下たちは、最初こそ「やってやりましょう!」と意気込んでいたが、次第に消極的になっていき、リーダーがあれこれ指示しないと思うように動かなくなっていった。
「なんでこんなに人任せなんだ……?」と疑問を抱いたHさんは、モヤモヤする気持ちを抑えつつ、チームのメンバー全員に簡単なアンケートを実施することにした。
そのアンケートでは、プロジェクトの進捗や成果が芳しくないことを率直に伝えたうえで、「なぜこのプロジェクトが難しいと感じるか。当てはまる理由にチェックを入れてください」という主旨の質問を設定した。
部下が躓(つまづ)いている理由を次の4要素に分類できるようにしたのである。
■「市場のトレンドがわからない」「新サービスの魅力を実感できない」「企画の面白さを感じられない」(感性)
■「失敗が怖い」「評価が下がる」「コスト負担を嫌がられるかも」(感情)
■「商品スペックや業界の仕組みを理解していない」「成功事例を知らない」(知識)
■「ロールプレイング不足」「資料作成スキルが低い」「システム操作が苦手」(技術)
数日後、集計結果を見てHさんは驚いた。半数以上の部下が「責任を負うのが嫌で怖い(感情)」と回答していたからだ。続いて多かった回答が「資料づくりや説明の仕方がわからない(技術)」「新サービスの背景が理解できていない(知識)」だった。意外にも、「企画の面白さを感じられない(感性)」と答えた人はほとんどいなかった。
「なるほど……。みんな、企画の意義は理解しているのか。でも、自信がなくて、どう提案すればいいかわからないんだな」とHさんは腑に落ちた。そこで、彼は次のような対策を講じた。
「どうすればできる?」を議論するカルチャーへ
①技術面の研修を強化する
「提案のロールプレイング」や「資料作成のテンプレート」を導入し、実践的なスキルを身につけさせる
②「失敗しても責めない、改善すればOK」という文化を周知
「まずやってみることが重要。新しいことなんだから、失敗したって大丈夫だ」と伝え、心理的なプレッシャーを軽減する
③知識を補強する
過去の成功事例やベンチマーク企業の成功事例を共有し、「こうやればうまくいく」という具体例を増やす
この3つの施策を実行した結果、チームの消極的な雰囲気が徐々に改善していき、4ヶ月後にはプロジェクトの目標を達成することができた。
このアンケートによる要因分析を導入したあと、Hさんのチームでは、会議の際に「できない理由」を「このなかのどれですか?」と尋ね合うカルチャーが出来上がった。
部下たちは、「いまは技術が足りないかな」「実はそこまで不安はないんですけど、やり方がわからなくて」などと率直に現状を言い合うようになり、問題の本質にすぐ到達できるチームになった。
何か不具合があれば、まず「できない理由」を分析し、適切な対処法を考えるというカルチャーが根付いたチームでは、リーダーが細かく指示を出さなくても、部下たちだけで問題を特定し解決していけるようになる。
部下一人ひとりがどの要素で躓いているのかを自己分析し、必要なサポートを周囲に求められるようになるからだ。
この事例の成功ポイントは、「できない」の原因を4要素(感性・感情・知識・技術)に分解し、それぞれに適切なアプローチを探し当てる問題分析・解決手法をチームに内在化させたことだ。
リーダーが獲得した有益な思考プロセスや知識を積極的にチーム全体に共有することで、リーダーは言葉を減らしつつ、組織の成果を最大化することができる。
文/田尻望 写真はすべてイメージです/Shutterstock

