ボクシング界のレジェンドのひと言が、野球ファンを騒然とさせている。日本時間7月16日にニューヨークで開催されたスポーツ表彰式「ESPY賞」でのことだ。「スポーツ界のアカデミー賞」と称されるが、昨年の年間ベスト・シングルゲーム・パフォーマンス賞を受賞したのはドジャースの大谷翔平。最優秀MLB選手との2冠に輝いた。
元ボクシング世界ヘビー級王者のマイク・タイソンがプレゼンターを務めたのだが、大谷の受賞を発表する際、
「ショウヘイというのは男なのか」
と司会者に尋ねたのだ。
これを受けて現地メディアは「タイソンは世界最高の野球選手を知らない」と驚きをもって報道。日本でも大きく報じられることとなった。
なぜタイソンは大谷を知らなかったのか。在米ジャーナリストは「なんら驚くことではない」として、次のように理由を説明した。
「米ギャラップの調査では、最も好きな観戦スポーツにアメリカンフットボールを挙げた人が40%以上なのに対し、野球は10%。大谷が野球ファンの間で圧倒的な存在なのは間違いありませんが、その影響力は他のスポーツやエンタメを追う層には届いていない。タイソンは別の情報圏で生きているということです」
他地域で野球を見ない人は知りようがない
野球そのものの「ローカル性」も大きいといい、
「MLBは162試合を戦い、ファンが地域放送で地元球団を毎日のように追う文化。ロサンゼルスでは大谷の一挙手一投足が大ニュースでも、他地域で野球を見ない人は知りようがない。大谷を知らないまま生活できる情報環境が成立しているんです」(前出・在米ジャーナリスト)
この断絶をさらに深刻にしているのが、ニュースのデジタル化だ。メディアアナリストが指摘する。
「かつては三大ネットワークや全国紙が、国民に同じニュースとスターを見せていましたが、現在はYouTubeやSNSが利用者の趣味を学習し、格闘技を見続ける人には格闘技、政治ばかりを見る人には政治を勧める。人口3億人超の国で、隣人同士がまったく別の現実を見ている。アメリカ社会における情報の分断は政治だけでなく、スポーツにまで及んでいるんです」
全米共通のスターが成立しない現実があったのだ。
(川瀬大輔)
1977年生まれ。国内外のビジネス、スポーツ、政治、社会問題を取材するフリー記者。

