香川照之(市川中車)の母で女優の浜木綿子が10月13日の「徹子の部屋」(テレビ朝日系)に登場し、6月に出版した著書「楽しく波瀾万丈」のタイトル通り、その波乱に満ちた「女の一代記」を告白した。
10月末で90歳となる浜が宝塚歌劇団を退団後、舞台共演で知り合い結婚したのが、故・市川猿翁(当時は市川猿之助)だった。ところが、息子・照之が誕生した1年後、突如として夫は家を出て、日本舞踊名取で女優の藤間紫と同棲生活を送ることになり、歌舞伎界が大揺れに揺れることに。
というのも、藤間は猿之助がまだ「市川團子」を名乗る12歳の頃、16歳上の初恋相手。しかも藤間の夫は猿之助の踊りの師匠・六世藤間勘十郎である。まさに許されざる「禁断の恋」。当然、2人は引き離されようとした。
しかし恋人を忘れることができなかった猿之助は1歳の息子を残して35年、その生活を続けることになる。
その後、浜は女手ひとつで香川を育て、東大に進学させるも、やはり「蛙の子は蛙」。大学卒業後、俳優の道に進んだ香川が意を決して父の公演先を訪ねたのは、25歳の冬だった。
しかし、父の口から返ってきたのは、
「大事な公演の前にいきなり訪ねてくるとは、役者としての配慮が足りません。あなたは息子ではありません。したがって、僕はあなたの父でもない。あなたとは今後、二度と会うことはありません」
この言葉が香川の気持ちに大きな影を落としたことは間違いないだろう。しかし、2003年に猿之助が脳梗塞を発症。2009年に藤間が肝不全でこの世を去ると、冷え込んでいた親子関係に、徐々に変化が訪れる。
そして2011年9月27日に行われた「四代目・市川猿之助襲名発表」会見。2003年に脳梗塞を患って以降は公の場に姿を見せていなかった猿之助が、なんと香川とその長男・政明(現・市川團子)と3ショットで登場したのである。親子揃っての歌舞伎界入りを発表することになるのだが、浜には事後承諾。まさに青天の霹靂だったとして、こう振り返った。
「心のうねりを感じました。ただ、『この船に乗らないわけにはいかない』と記者会見で言っておりましたので。その船にそよ風ぐらいですけど、風を当てて応援していきたいなと」
その後、浜は四十数年ぶりに猿翁と再会。
「照之をこんなに立派に育ててくれてありがとう。大変だったね」
そう言われて「大変でした」と返したという。
そんな猿翁が83歳でこの世を去ったのは、2023年9月である。浜が発表した談話には、こんな文章が綴られていた。
〈偉大なる歌舞伎役者、安らかに、お休みくださいませ。私は今度こそが、本当のお別れでございます〉
壮絶な愛憎劇を経て「今度こそが本当の別れ」という一行に、浜の実に複雑な胸の内が込められているようだった。
(山川敦司)

