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なぜ人は「選ばない消費」に向かうのか 家電・ブランド服・ホテルまで…1兆円超のサブスク市場が示す消費者マインドの変化

なぜ人は「選ばない消費」に向かうのか 家電・ブランド服・ホテルまで…1兆円超のサブスク市場が示す消費者マインドの変化

私たちが「出会い」と呼ぶ体験は、なぜか自分で選んだ場では生まれにくい。「出会い」という言葉には、日常の枠を超える偶然への期待が含まれているからだと指摘するのは、消費者行動を研究する久我尚子氏だ。

プロによってセレクトされたブランド服や家電、最近ではホテルまでを使用するができるサブスクサービスの拡大は、いいものへの「出会い」を増やすことができる一方、ゼロから選ぶという行動を私たちが避けていることを示しているという。

書籍『選ばない消費 AI時代の暮らしと価値観』より一部を抜粋・再構成し、「選ばないこと」で人生が豊かになるという氏の考えを解説する。

出会いで考える選ばない消費

選ばない消費の良さや便利さを深く考えていくと、行き着くキーワードの一つが「出会い」です。

出会いとは、そもそも予定通りに訪れるものではなく、想定外の出来事の中に潜んでいるものだと考えられます。「予期せぬ出会い」という言い方をよく耳にしますが、出会いとは本来、予期できないものです。

たとえば、あらかじめ「会ったことのない人が来る」と分かっている食事会で、その人がどれほど魅力的だったとしても、それは用意された接点にすぎません。むしろ、その場に来る予定のなかった人がふとあらわれて、思いがけず幸運や刺激を運んできてくれる、そんな場面を私たちは「出会い」と呼びたくなるのではないでしょうか。

「出会いがない」という決まり文句は、いつの時代も結婚や恋愛をしない理由の上位に挙がりますが(図表10)、この「出会いがない」という言い回しには、「思いがけない出会いのきっかけが少ない」というニュアンスが含まれているように思います。

たとえば「職場に出会いがない」と言うとき、それは単に対象となる同僚が少ないという不満だけではなく、日常の枠を超える偶然が起きにくい状況への物足りなさも含まれているのではないでしょうか。

つまり、人は出会いを良いものとして期待しています。初めて顔を合わせた相手がとんでもなく困った人だった場合、それは出会いとは言わず、むしろトラブルと言うのかもしれません。だからこそ、多くの人は「出会いがない」と口にしながら、それを小さな悩みとして抱えています。

では、どうすれば出会いと呼べるような出来事と巡り合えるのでしょうか。そこで手がかりになるのが「選ばない消費」です。選ばない消費は、予期せぬ出会いを生む余地を広げてくれます。自分で選ぶ場合、あらかじめ選択肢は絞り込まれています。どれだけ良いものを選んだとしても、それは想定の範囲を出ないでしょう。

たとえば、お見合いパーティーでは、参加者は年齢や年収、趣味などの条件で絞り込まれ、条件が整った出会いの場が用意されます。そこで相性の合う相手を見つけられたとしても、それは想定外の出会いとは少し異なります。

一方で、恋愛や結婚のきっかけを意識して選ぶのではなく、デパートやジム、犬の散歩といった日常の延長線上で、偶然人と知り合う。そうした出会いは、より想定外の感覚を伴います。そうすると、やはり出会いとは、予測できない状況の中にあるものだと感じます。

だからこそ、日々の消費行動においても「選ばないこと」を少し意識してみると、思いがけない人やモノとの接点が生まれやすくなるのかもしれません。結果として、人との出会いの確率も、少しずつ高まっていくのではないでしょうか。

「選ばない方がいい」と一概に言いたいわけではありません。しかし、選ぶ行為から少し距離を置くことで、むしろ自然に出会いが訪れる、そんな側面も、選ばない消費の魅力の一つだと思います。

サブスクで考える選ばない消費

私たちが「出会い」を求めている証左は、他にもいろいろあります。サブスクサービスの広がりも、その一つではないでしょうか。サブスクの魅力は、買って所有するのではなく、定額で多様な商品やサービスを試せるところにあります。

たとえば、1万円を払って一つの物を購入する場合、出会いは一回きりです。けれど同じ1万円をサブスクに使えば、複数の異なる商品や体験に触れることができる。出会いの回数は単純に増え、それだけ意外性や楽しみが広がります。

以前、経済番組のディレクターから、サブスクをテーマにした取材の話を聞いたことがあります。その中で特に印象的だったジャンルをいくつか紹介してみたいと思います。

まず分かりやすい例が、文房具のサブスクです。文房具専門店を運営する「カネゲン」では、毎月およそ3000円の定額で、「日常で使えるベーシックだけれど〝おしゃれ〟で〝上質〟な文房具」をテーマに、ペンやホチキス、付箋や封筒などを届けてくれます。「仕事や勉強がはかどる」「いつもの事務仕事が少しだけ華やいだ気分になる」といった声が寄せられており、届くまで中身が分からないぶん、小さなガチャのような楽しさもあるようです。

次に家電のサブスクが挙げられます。「高級家電をひとまず試してみたい」というニーズを捉えたサービスで、たとえば「Rentio」では炊飯器やプロジェクター、美容家電などを一定期間レンタルできます。

2025年7月にレンティオ株式会社が公表した情報によれば、すでに月間15万人以上が同サービスを利用しているそうです*1。定価16万円ほどする炊飯ジャーを、月額4500円ほどで試せるのはかなりお得感があります。

このサービスの特徴は、家電メーカーの協力を得ていることです。メーカーは本来、購入してもらう方が利益につながりますが、レンタル期間を経て、試した上で買うという選択肢を用意することで、お試しのハードルを下げています。

「ルンバ」で知られるロボット掃除機もラインナップに加わっていて、4万円ほどの機種を月額1000円以下で使えます。これを選ばない消費といえるのか、と感じる方もいるかもしれませんが、これもまた「買って持つ」から「借りて使う」へと移行する中で、「自分で選ばなければ」という意識が薄れ、「人が選んだモノで構わない」と考えるようになる変化と同じ流れにあるといえます。ここに自分が買うのだから自分で選ぶ、という意思はありません。

ブランド服のサブスクも、ここ数年でぐっと存在感を増してきました。たとえば大丸松坂屋が展開する「アナザーアドレス」は2021年に始まったサービスですが、2025年末時点で会員数が37万人に達しています*2。Traditional WeatherwearやCOACH、MSGM、JILL STUARTなど、海外の有名ブランドもそろっていて、さまざまな服と出会えることが人気の理由の一つになっています。

これも家電のサブスクと同じロジックで、所有という枠組みを超えたところに消費意欲が生まれているのだと思います。このサービスはクリーニングが行き届いていて、新品同様の状態で届くのも特徴です。

気に入った服を何度もレンタルする人もいるそうです。「それならいっそ買ったらいいのでは?」と思うかもしれませんが、所有にこだわらず、手軽にいろいろ試してみたいというニーズの方が勝っているのでしょう。

そして、ホテルのサブスクも注目を集めています。東急は定額宿泊サービスの「ツギツギ」というプランを展開し、全国の提携ホテルに好きなだけ滞在できる仕組みを用意しています。

こうして見ていくと、サブスクは単なる便利さ以上に、予期しないモノや体験との出会いを生む仕組みとしても機能しているのだと思います。

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