本稿では、無類の映画ファンで知られるフリーアナウンサーの笠井信輔による、『キングダム 魂の決戦』のレビューをネタバレなしでお届け。原作連載20周年を迎えるメモリアルイヤーでもある今年、新たなフェーズに入った映画「キングダム」を笠井はどう観たのか?

■役者の顔ぶれを見るだけでワクワクする、キングダム版『七人の侍』
結論(ネタバレではない)から先に言おう。
超人気シリーズ「キングダム」の5作目は、壮大な『七人の侍』(54)だった。
今回も戦闘アクションが見ものだが、“攻める”のではなく、徹底的に“守る”戦いだ。まさに選ばれた侍(大将)たちが、野武士(合従軍)から村(秦)を守る防衛戦が描かれる。
壮絶な闘いはスペクタクルシーンをいくつも産みだしていた。
私が認識しているところでは、戦場で秦を守る大将は、以下の武将たちである。
(1)麃公(ひょうこう):豊川悦司
(2)蒙武(もうぶ):平山祐介
(3)騰(とう):要潤
(4)桓騎(かんき):坂口憲二
(5)王翦(おうせん):谷田歩
(6)蒙驁(もうごう):坂東彌十郎
(7)張唐(ちょうとう):橋本さとし

まさに七人!
キングダム版『七人の侍』である。
今回の敵は“野武士”などという輩たちではない。趙、楚、魏、韓、燕、斉の六国による合従軍(がっしょうぐん)!中華のすべての国が連合を組んで信(しん/山崎賢人)が生きる秦の国を攻めてくる。
敵である連合軍の前線に立つ武将は、
(1)楚軍、汗明(かんめい):勝矢
(2)楚軍、媧燐(かりん):三吉彩花
(3)魏軍、呉鳳明(ごほうめい):田中圭
(4)韓軍、成恢(せいかい):渋谷謙人
(5)燕軍、オルド:宍戸開
(6)趙軍、慶舎(けいしゃ):中村蒼
(7)趙軍、万極(まんごく):山田裕貴

こちらも七人!偶然なのか。「七人の侍vs七人の侍」なのだ。
役者の顔ぶれを見るだけでワクワクするが、国も武将も多く入り乱れ、こうした作品はともすると登場人物は置いていかれ、戦いの迫力だけを描くことになりがちだ。洋画はこのケースが目立つ。
しかし、本作ではすべての大将、将軍のキャラが立っている!奇跡のようなおもしろさが『魂の決戦』なのだ。
■今回は宮廷の“軍議”もおもしろい!
舞台は、秦を守る国境にある難攻不落の巨大要塞=函谷関(かんこくかん)。武将は7人vs7人だが、軍勢は「合従軍・50万」vs「秦軍・20万」というとてつもないスケールの大戦争。広大な戦場は、複雑な陣形となるが、どこで誰が闘っているかを、時間をかけてわかりやすくしているところも本作の醍醐味になっている。

一度説明をしても、橋本環奈演じる軍師・河了貂(かりょうてん)が、地面に国の位置関係をあらためて書き示す。これは、まさに『七人の侍』の軍師・勘兵衛=志村喬だ。
さらに、人形とジオラマで説明を繰り返す丁寧さに膝を打った。アクション系洋画は、ほぼここを捨てている(笑)。
また、単純に敵・味方とステレオタイプに分けず、趙軍・万極(まんごく)役の山田裕貴の、趙の民衆の“積年の恨み”を描き、敵方も人間、同情の余地があるという「鬼滅の刃」の鬼との闘いと同じようなドラマツルギーを生み出している。いまの戦争の時代に、戦争は単にアクションを楽しむだけのものではないという一歩深いテーマを投げかけ、いままで見たこともない戦闘シーンが出現している点にも注目だ。

一方、本作の魅力は戦闘シーンだけではない。
「キングダム」シリーズは、どうしても戦闘アクションが柱であり、宮廷のシーンは、一時期のゴジラ映画のように、“ゴジラが出てこないシーン”のような部分もあった。
「早くゴジラを!」「早く信を!」といった観客の感情が生まれがちだった。
しかし、今回は宮廷の“軍議”がおもしろい!

50万の軍勢が攻めてくるかつてない危機。その緊張感を生み出しているのは、錚々たるキャストの重厚な演技と、なにより秦国の若き大王・嬴政(えいせい)を演じる吉沢亮その人である。
『国宝』級の俳優になったことで、存在感と風格が増し、これまで以上に求心力を持つ大王となったことも、軍議のシーンが魅力的になった要因の一つと思われる。
そんなふうに新たなフェーズに入った「キングダム」。
覚悟はしていたが、いや、そこで終わるか!(笑)
まさに『帝国の逆襲』だった。
今回、いつも以上に引っ張るので皆さんもご覚悟を!
この1本だけでも十分満足!なのだが…やはり早く、早く、続きをお願いしたい。

文/笠井信輔(フリーアナウンサー)
※山崎賢人の「崎」は「たつさき」が正式表記
