製作費100万ドル未満の低予算で本作を作り上げ、北米で累計興収2億ドルを超え、世界で累計興収4億ドル突破の爆発的大ヒットを巻き起こしたのが、YouTube出身の映画監督カリー・バーカーだ。このたび、現在26歳、劇場映画デビュー作で“時の人”となったバーカー監督へのオンラインインタビューを敢行。ホラー演出へのこだわり、YouTubeクリエイターを取り巻く環境の見解についても語ってくれた。
■「リアルな関係性は周りの人の体験も参考にしながら作り上げた」

楽器店で働く青年ベア(マイケル・ジョンストン)は、学生時代からつるんできた友人の一人で職場の同僚でもある女性ニッキー(インディ・ナヴァレッテ)への長年の想いを抱きながら、なかなか告白できずにいた。愛ネコが急死し落ち込むベアは、ニッキーが仕事を辞めることを知りますます失意の底へ。そんな時、アンティークショップで“願いを叶える”という不気味なまじない玩具“ワン・ウィッシュ・ウィロー(願いの柳)”を購入し、「ニッキーが僕を誰よりも愛してくれますように」と願ってしまう。おもちゃとわかっていながら恋のまじないをした自分に呆れるベアだったが、なんとその願いが叶い、ニッキーから一途な愛を向けられることに。戸惑いながら言われるがまま彼女を自宅に連れ帰ったベア。しかしその日から、ニッキーはベアに“執着”し、狂気的な愛に翻弄されていく…。
『オブセッション 災愛』のアイデアは、バーカーの「ある男女がお互いに執着し、その関係が狂気に発展する」というメモ書きが着想源になっている。そこにアニメ「ザ・シンプソンズ」の「モンキーズ・ポウ(猿の手)」がモデルになった“願いが裏目に出る”エピソードの要素が加わったことで徐々に形になっていった。

そんな本作はホラーでありながら(かなりエッジの効いた)ラブストーリーという趣もあり、ベアとニッキー、2人と同じ友人グループのイアン(クーパー・トムリンソン)、サラ(メーガン・ローレス)を含む関係性には、ユーモアや気まずさもあり、「こんなやり取りあるよな」と共感できるものになっている。「もしかしてこれは監督自身、あるいは近しい人の実体験?」という質問をぶつけると、「そういうわけではない」と一蹴されてしまった。
「オブセッション=執着する物語が描きたかったことに尽きますね。ただ、リアルな関係性は周りの人の体験も参考にしながら作り上げました。例えば、(サラがベアに好意を抱いていることに言及しながら)若い頃、友人グループ内の一人に恋心が生まれると、ほかに気が合う人がいてもそれに気づかなかったりしますよね。ベアの状況はまさにそれであり、私が描きたかったことでもあります」。
■「ベアのキャラクターは徐々に本性が暴かれていくようにしたかった」
“願い”に支配されたニッキーはとにかく恐ろしい。執拗にベアの愛を確かめようとするし、男友だちとの飲み会にもついていこうとするし(実際には女子も参加していた)、少しでも彼の心が自分から離れたように感じると、奇声を上げて激しく怒りをぶつけてくる。そんなニッキーを見ながら、観客はいつ彼女が爆発するのかと身構えてしまう。

「この映画における“恐怖”はニッキーそのものであり、彼女を予測不可能なキャラクターにしたいと考えていました。対人関係において相手の意図がまったくわからない時、人はどれほどの恐怖を感じるのか。そんなことを表現したかったのです」。
一方で、そもそも事の発端はベアにあり、物語が進むにつれて彼のほうが悪いのでは?と思わせる構成になっているのも秀逸だ。このような展開は最初から練られたものだったのだろうか?
「ベアのキャラクターは、徐々に本性が暴かれていくようにしたいと考えていました。観客に最初からすべてをわかってほしかったわけではありません。むしろ、物語の序盤は観客にベアに深く共感してもらいたかった。そこからゆっくりとひも解かれていくなかで、実は彼自身がこれを望んでいたんだと観客が気づき始める展開を目指しました。もしもベアが最初から正しい行動を取っていれば、観客は最後までずっと彼を応援していたはずです。まさかあの願いが本当に叶うなんて、彼だって知る由もなかったわけですから。しかし、まじないが実際に機能していると知ったあとも、ベアはそれを友人たちに秘密にし続ける。その対処の仕方は、観ているほうからすると完全に間違っていますよね」。

映画冒頭でレストランのウェイトレス相手に告白の練習をする様子からはベアのナイーブだけど真面目な性格が伝わってくるし、その後の飼い猫が室内にあった薬品を誤飲して亡くなっているのを発見し、激しく落ち込む姿には同情してしまう。しかし、彼は道具を使ってニッキーの心を動かし、その状況をなんだかんだ楽しみながら、彼女が豹変すると疎ましく感じるようになっていく。そんなキャラクターを観客はしだいに軽蔑し、代わりにニッキーに心を重ねることになるのだろう。
■「感情の起伏について徹底的に話し合い、何度もテイクを重ねた」
劇中のニッキーは、嫉妬したり、怒ったり、と思ったら急に笑顔になるなど表情変化が激しい。演じるインディ・ナヴァレッテに対して、バーカーはどのような演出をしたのだろうか?

「かなり具体的に指示を出し、初日からほぼすべてのシーンを彼女と一緒に確認していきました。いくつかホラー映画も参考にしていて、その一つが『Pearl パール』です。ミア・ゴス演じるヒロインは映画スターになることに“執着”していて、夢を叶えるためなら手段を選ばないからです。彼女のあの演技は見事でした。そういった感情の起伏について徹底的に話し合い、自分たちが目指すレベルに達するまで何度もテイクを重ねました。これは地道なプロセスです。また、大勢のスタッフの前で、時には客観的に見たら恥ずかしいような演技も求められるわけで、精神的にも肉体的にも非常に負荷のかかる作業だったはずです。だからこそ、私は撮影現場のトーンをできるだけ明るく保つように心がけました。お互いに笑い合えるような雰囲気を作り、深刻になりすぎないようにしたのです」。
■「最も重要だったのは、すべてのキャラクターにリアルなリアクションをしてもらうこと」
バーカーは、本作でイアンを演じたクーパー・トムリンソンと共に登録者数150万を超えるYouTubeチャンネル「that's a bad idea」を運営している。特に制作費800ドルのファウンド・フッテージ・ホラー『Milk & Serial』は380万回以上の再生回数を記録するなどカルト的ヒットに。そういう意味でもキャリアを着実に積んできたホラークリエイターといえる。ストーリーテリング、ホラー的演出におけるこだわりについては以下のように語っている。

「私にとって最も重要だったのは、この映画に登場するすべてのキャラクターに『現実の人間ならこんな反応をする』というリアルなリアクションをしてもらうことでした。ベア役のマイケルを演出の例に挙げると、一般的なホラー映画では、リアクションがどこか“お決まりの表現”になりがちです。恐ろしいものを見た時、なぜかそれに近づいていって、顔をこわばらせて驚くだけだったりしますよね。でも、もし自分の部屋で本当に恐ろしいものを見たら、おそらくパニックになって部屋から飛び出すはずです。ですから、今回の挑戦はストーリーを前に進めつつ、同時にいかにリアルなリアクションを維持するかという点にありました。そして、キャラクターを一人の人間として“真実味があるもの”にしたかったのです」。

続けて、劇中のムード作りにも言及。メロディアスな音楽が流れたと思ったら物語が急展開するなど、ジェットコースターのような起伏があって心が落ち着く暇がない。「劇伴はとにかく、圧倒されるほどせつなく、絶望的なものにしたいと考えていました。常に恐怖へと向かうのではなく、むしろ悲しみや痛切さ、そしてある種のおぞましさ、予期せぬ恐怖へと向かう音楽です。そのため、作曲を担当してくれたロッキーとも話し合い、“ロマンス映画のスコアに擬態した、ホラー映画のスコア”を作ろうと決めました」。
■「すべての映画にはコメント欄があり、それが私たちの生きている世界」
先述の通り、バーカーはYouTubeからキャリアをスタートさせたクリエイター。そして近年、本作と同じく社会現象級のヒットを記録している『バックルームズ』(9月4日公開)のケイン・パーソンズ(バーカーよりもさらに若い現在20歳!)、『TALK TO ME/トーク・トゥ・ミー』(22)や『ブリング・ハー・バック』(公開中)のダニー&マイケル・フィリッポウ兄弟とYouTube出身の監督の躍進が目立ち、しかもそれぞれの作品が常に大きな話題を巻き起こしている。
YouTubeを通して作った作品を世の中に発信し、うまくいけば一気に知名度を上げることにもなるが、再生回数や投稿コメントによってダイレクトに反応や評価を突き付けられることにもなるはず。こういったプラットフォームを利用できる環境が整えられている状況について、バーカーはどのように捉えているのだろうか。幸運、もしくは、プレッシャー?

「それはとても興味深いテーマです。YouTubeやInstagramには投稿した動画へのコメント欄があって、そこにはリアルタイムのフィードバックがあふれています。私自身、ひとたび劇場公開される映画を作れば、コメント欄からは解き放たれ、もう目にする必要はなくなるんだとずっと思っていたんです。ですが、実際はまったく違いました。いまの時代、すべての映画に“コメント欄”が存在すると思います。それが(映画レビューのソーシャルメディア)『Letterboxd』のスコアであれ、『Rotten Tomatoes』の評価であれ、あるいは(インターネットで閲覧できる)映画の予告編や監督自身がSNSに投稿したテキストであれ、そこには必ずコメント欄があります。いまのすべての映画にはコメント欄があり、それが私たちの生きている世界なんです」。
■「私たちはただ、YouTubeというプラットフォームが存在する時代に生きているだけ」
たしかに、テレビや新聞、雑誌がおもな媒体だった時代とは違い、現代はSNSやYouTubeに投稿されたプロモーション映像に向けて、誰もが自由な感想を言い合える社会になっている。

「ですから、私がYouTube出身であるかどうかが、自分に悪影響を与えているとも、逆に好影響を与えているとも、実はそれほど感じていません。それに私の歩んできた道のりが、デヴィッド・フィンチャーやスティーヴン・スピルバーグと大きく異なっているとも思いません。もちろん、自分を彼らのような巨匠と比較しているわけではありませんよ!ただ、彼らのキャリアの歩みという点で見れば、若き日のクリストファー・ノーランの短編映画を観ることもできますし、初期作品からその後の成長の軌跡を辿ることができますよね。私たちはただ、YouTubeというプラットフォームが存在する時代に生きているだけです。まず、フィリッポウ兄弟がその道を切り拓きました。続いて、私も自分の短編映画を映画会社の幹部のデスクにこっそり忍び込ませる代わりに、プラットフォームに公開することを選んだんです。見いだされ方のルートが変わったというだけのことですね」。
今後、『オブセッション 災愛』に続いてブラムハウスと組む『Anything But Ghosts(原題)』で監督と脚本、主演を務め、A24が『悪魔のいけにえ』(74)をリブートするプロジェクトにも参加予定のカリー・バーカー。さらなる飛躍が約束された新鋭の、ターニングポイントとなる本作をぜひともチェックしておいてほしい。

取材・文/平尾嘉浩
