箱を返しに来た元恋人
待ち合わせたカフェで、元恋人はコートも脱がずに席についていました。テーブルに置かれた紙袋を、私のほうへ少しだけ押し出します。
「ごめん。これ、君のだから」
そう言うと、彼は窓の外へ目を向けたままでした。別れを切り出されたとき、彼は「結婚なんて、今は考えられない」と口にしました。あの一言を境に、彼が遠ざかっていくのを止められませんでした。紙袋を受け取り、私は短く頭を下げて先に席を立ちました。
ケースの中の一枚
帰宅して、ケースの中のレシートを広げてみました。記されていたのは、宝石店で支払われた指輪の代金です。金額の桁を見て、思わず座り直しました。買われた日付は、半年も前のものでした。2人がいちばん穏やかに過ごしていた頃です。あの時期の彼が、こんなものを用意していたというのでしょうか。それなのに、最後まで手渡されることはありませんでした。問いだけが、私の中に積み上がっていきました。
