あくまで夢を追うのか、それとも現実を選ぶのか。
楽天の辰己涼介がこの秋、大きな岐路に立たされている。本人はポスティングによるメジャーリーグ挑戦を希望して球団に直訴したが、現時点では認められていない。すでに国内FA権を取得していることで、国内他球団への移籍という選択肢も視野に入る。
俊足と強肩を誇るセンター守備は球界屈指。昨年は打率2割9分4厘、7本塁打、58打点、20盗塁を記録し、158安打で自身初の最多安打タイトルを獲得。攻守にわたってチームを支えた。
ところが今年は打率2割4分、7本塁打、32打点に終わったことで、
「パンチ力不足は明らか。メジャーリーグでは通用しない」
「もう1年、結果を残してから考えるべき」
といった見方が出ている。
そうした「メジャーではどうなのか」という危うい評価の選手に懸念されるのが「有原式FA」「上沢式FA」の呼称が定着した、「メジャー挑戦⇒失敗⇒たちまち日本球界復帰⇒強力球団へ移籍」という流れである。
例えば上沢直之は、日本ハムからポスティング制度を利用してレイズとマイナー契約を結んだが、日本ハムに支払われた譲渡金はわずか95万円ほど。形式上はメジャー挑戦だったが、実際には球団にほとんど見返りはなく、その上、通用しなかったことで、たった1年で帰国。FAの身分となってソフトバンクに金を積まれ、移籍した。制度の盲点を突いた移籍劇として、大いに物議を醸したのは事実である。
有原航平の場合も同様で、日本ハム⇒レンジャーズ2年で通用せず⇒FA⇒ソフトバンク入団という道を辿った「元祖」だ。
辰己は今年1月、大トリとなる契約更改で「生え抜きトップクラスの評価」を受けたとされ、年俸8000万円から1億3000万円への昇給(いずれも推定金額)となった。球団の年俸ランクではBランクで、もし国内球団にFA移籍すれば、人的補償や金銭補償が発生することになる。
だが結果的に上沢と同じ方法をとれば、FAランクの制約を受けずに、帰国後の新天地を選ぶことが可能になる。楽天としては主力野手をわずかな譲渡金で失うわけにはいかず、ポスティング容認には慎重にならざるをえない。
水面下では、巨人が辰己の動向を注視しているという。チームはここ数年、センターを固定できず、丸佳浩はフル出場から遠ざかっている。守備範囲が広く、肩が強い外野手は魅力的だ。
辰己はここ2年、契約更改交渉が越年するなど、球団との難しい関係が指摘されている。その去就に結論が出るのはいつになるのか。
(ケン高田)

