2026年のF1は、テクニカルレギュレーションが大きく変更される。この変更は各チームに様々な技術的課題をもたらしているが、その中でもブレーキの変更も「最も困難な」要素のひとつとなるだろう。
現行のF1マシンのパワーユニット(PU)は、エンジンで発生するパワーと電気モーターのパワーは8:2の比率である。しかし2026年は、エンジンと電気モーターの出力が均等となる。このため、F1マシンに搭載されるMGU-K(運動エネルギー回生システム)の出力は、120kW(約161馬力)から350kW(約469馬力)に引き上げられることになる。MGU-H(熱エネルギー回生システム)は廃止される。
このMGU-Kのパフォーマンス変更は、ブレーキのパフォーマンスにも大きく影響を及ぼす。MGU-Kで使う電気エネルギーは、ブレーキング時の減速エネルギーを電気エネルギーに変換して得ているからだ。
「今年は我々にとって、F1で15年目のシーズンだ。これまでブレーキ、マシン、タイヤ、ホイールの形状など、様々な変更を経験してきた。正直に言って今回は、我々にとって最も難しいレギュレーション変更のひとつだ」
そう語るのは、多くのF1チームにブレーキのパーツを供給する、ブレンボのF1カスタマーマネージャーであるアンドレア・アルジェリだ。
2026年にブレーキのハードウェアが大幅に刷新されるのには、主な理由がふたつある。ひとつはMGU-Kによるエネルギー回生能力の向上、そしてもうひとつは、レギュレーション上での自由度が高まったことだ。
現在のブレーキディスクの直径は、フロントが325〜330mm、リヤが275〜280mmと規定されており、厚みは最大32mmとされている。しかし2026年には直径がフロント325〜345mm、リヤが260〜280mm、厚みは最大34mmに拡大されている。サイズ展開が拡大したことで、回生ブレーキを併用しないフロントのディスクを大きく、逆に回生ブレーキを併用するリヤのディスクを小さくすることができる。また、キャリパーの取り付け点が2箇所から3箇所に増える。
この変更についてアルジェリは、過去20年で最大の変更であり、「エンジニアの作業の自由度が増す」と語っている。
ちなみにブレーキの作動原理は来季も今年と変わらず、フロントは純粋な油圧式、リヤはブレーキ・バイ・ワイヤ方式によって摩擦ブレーキと回生ブレーキの仕事量を調整する。
重量をどうする?
2026年シーズンの重要な要素のひとつは、どうやって車重を軽くするかという点だろう。バッテリーのサイズが拡大し、この部分で重量が増加しているにもかかわらず、F1マシンの最低重要は現行の800kgから768kgに引き下げられる。
F1パドックでは、2026年のシーズン開幕時に最低重量ギリギリまで軽量化できるチームはごく僅かだろうという見方が広がっている。このことはブレーキの設計にも影響を与えている……つまり、大きいブレーキをつけた方がいいという時代は、すでに終わりつつあるのだ。
「各チームは最良のトレードオフを模索している」
そうアルジェリは語った。
「今シーズンよりも大幅に大型化することは避けている。なぜなら、使用が許されている最大サイズのブレーキを使うと、重量が重くなり過ぎてしまう可能性があるからだ。一方で、エネルギー回生に関する戦略については、チームごとに考え方が異なる」
アルジェリは、一部のチームはフロントのブレーキを(最大サイズまでではないものの)大型化し、リヤブレーキのサイズを小型化していると明言した。具体的なチーム名はもちろん明かさなかったが、少なくとも3チームが、軽量化にむけて「かなり大胆」な取り組みをしており、もしこれが成功すれば、グリッドの上位/下位問わず、このアプローチが模倣される可能性が高いと示唆した。
それでも、リヤブレーキを小さくできる範囲には限りがある。これはパフォーマンス上の理由だけでなく、回生ブレーキが失われてもマシンを安全に停止できる能力が、リヤブレーキには必要だと定められているからだ。レギュレーションでは、PUの助けを借りずに、べダルの踏力150bsrに対して、リヤの制動トルクが少なくとも2500Nmになるようにと定めている。
「これは基本的に、リヤブレーキが非常に薄かったり小さかったりするという、想定外の事態が起きることを避けるためだ。何かが機能しなくなると、大きな問題に繋がる可能性がる」
「設計は極端な状況を考慮したものになる。コースレイアウトやエネルギー戦略によって、従来のようにブレーキを使わざるを得ない状況でも絶えられる、十分な大きさのディスクが必要なのだ」
「おそらく、コースごとに異なる冷却仕様になるだろう」
「例えば、負荷が小さなサーキットでは、ブレーキディスクのカーボンを適切な温度に保つために、開けられた穴の数を少なくし、温度を少し高めに保てるようにする。一方ほかのサーキットでは、穴の数が多い冷却に優れたディスクを使用することになる」
サーキットごとのブレーキ性能を見直さなけれいけない理由
一般的に、回生ブレーキへの依存度が高まるため、リヤのブレーキディスクにかかる負荷が現在よりも小さくなるはずだ。したがって、冷却する必要性も減少するだろう。カーボンファイバー製のブレーキディスクは、ある程度温度を上げてやらないとうまく作動しない。アルジェリによれば、この対処として、ディスクの穴を減らしたり、ブレーキダクトの経路を変更するなどの可能性があるという。一方で2026年型マシンは直線スピードが向上するとされているため、フロントブレーキはよく冷えるはずだ。
現時点でも、超高速のモンツァと超低速のモナコでは、ブレーキに求められる性能は大きく異なる。しかし、必ずしも予想通りの差が生じるとは限らない。
「サーキットごとのブレーキ負荷に関する評価を見直す必要がある。なぜならこれは、エネルギー回生に大きく関係しているからだ」
そうアルジェリは語った。
「モナコやシンガポールのように、トルクの面で負荷の低いサーキットは、エネルギーを回生する十分な時間があり、あるタイミングではバッテリーがフル充電の状態になってしまう。そうすると、摩擦ブレーキを使わなければいけなくなるため、ブレーキにとっては非常に厳しいものになる」
ブレーキの戦略は、来年のマシンのパフォーマンスにおいて非常に重要な要素になるだろう。PU単体でも、ハードウェアだけでなくその使い方次第で、ラップタイムを大幅に伸ばすこともできるはず。回生ブレーキへの依存度が高まることで、チームはコーナリング時の減速だけでなく、MGU-Kに供給するエネルギーをどう回収するかということについても、様々な工夫を凝らす必要がある。
つまり2026年のF1は、ハードウェアだけでなくソフトウェアの開発も重要な要素となるということ。外部からは見えにくい部分もあるかもしれないが、それも非常に興味深いことになるだろう。

