「3食フライドポテトばかり食べていた中学生が死亡した」――そんな衝撃的な事例が実際にあった。司法解剖で明らかになったのは、死亡直前まで続いていた「1日500円」で暮らす極限の生活だった。なぜ栄養失調は命を奪うまで深刻化したのか。法医学者が解剖で目の当たりにした、貧困と栄養失調の過酷な現実をたどる。
Case. 1「便秘で死ぬ」
「お腹が痛い」「吐きたい」と訴えて、深夜に救急病院を受診した小学校低学年の女の子。すぐにCT撮影し、直腸にたくさん便が詰まっていたことから医師は「原因は便秘」と診断します。
緊急性が高いケースではないため、そのまま痛み止めだけ行って入院させ、翌日に処置をしましょうという話で落ち着いたのですが、翌朝早くに女児は死亡。医療ミスが疑われて解剖にもち込まれました。
まだ小学生だった女児の痛ましい事例です。解剖で小腸と大腸を切り開いたところ、大量の硬い便が出てきました。便秘という診断自体は正しかったといえます。
ただ、CT写真をみると、大量の便詰まりによる腸閉塞が起きていたであろうことがわかりました。
肛門の出口付近には相当に硬い便が大量にあり、それが排便を妨げていたのでしょう。死体検案書に記した死因は「便秘による宿便性腸閉塞」、つまり便が腸内に長期滞留したため、腸管が塞がって消化物やガスが腸を通過できない腸閉塞の一種です。
突然の愛娘の死を前に、ご両親が深い悲しみに暮れるのは当然です。死の直後にご遺族は、「病院側が適切な医療行為をしていれば娘は助かったはずだ」と主張して、民事裁判を起こすと話されていましたが、その後の続報が聞こえてこなかったことを考えると示談になったのかもしれません。
では、少女を救える分岐点はどこだったのか。
便秘に対する適切な医療行為、この場合は摘便していれば防げた死だったはずです。摘便とは、医療従事者が指を使って、肛門付近に詰まっている便を直接取り除くケアのこと。
指を入れて、硬い便をビュッと取るだけの簡単な処置ですから、便秘と診断した時点で医師が指示すればすぐにできたはずです。
それをしなかった理由は、おそらく深夜の受診だったからではないでしょうか。深夜の救急医療の基本は、「よほど重症でない限りは朝までもたせる」です。翌朝になれば専門医が出勤する。それならば、積極的な治療はせずに安静にさせてしのごう。
深夜の当直医師がそう考えてしまうのも無理はありません。しかし、「よくある便秘だから」と甘くみた判断ミスが、悲劇を招くこともあることを医療従事者は心しておくべきでしょう。
Case. 2「3食フライドポテトで死ぬ」
「嘔吐が止まらない」と訴える中学生の男子が病院へかけ込みました。お腹の調子が悪いのだろうとの判断から整腸剤を処方され、帰宅しましたがその直後に少年は死亡。解剖によって判明した死因は、「ハンバーガーチェーン店のフライドポテト」によるものでした。
子どもの死は原因がなにであっても痛ましいものですが、とりわけ個人的に印象に残っているのが「ハンバーガーチェーン店のポテトが原因で死にいたった少年」のケースです。
嘔吐で病院にかけ込み、整腸剤を処方されたけれども、死亡してしまった中学生男子。若く既往歴もない少年の突然死の原因を明らかにするため、解剖を行ったところ、衝撃的な事実が明らかになりました。
少年の死体を解剖して胃を切り開いたところ、まず胃全体が異常に大きくなっていました。さらに拡大した胃が腸を圧迫し、骨盤の狭い空間に小腸の一部がググッと入り込んだ結果、小腸が壊死して黒く変色していたのです。
小腸は通常、食べ物を消化して通過させるトンネルのような役割を果たす器官ですが、この腸が穴にはまり込んだ結果、トンネルが狭くなり、食べたものが通過できなくなります。
食欲低下、お腹の張り、吐き気、嘔吐などの症状を引き起こすこの状態は医学的に「腸閉塞」と呼ばれています。
では、なぜ少年は腸閉塞を起こしてしまったのか?
原因は生前の彼の家庭環境にありました。少年は父子家庭の一人っ子であり、毎日の食事は父親から渡される500円で、すべて賄っていたことが死後明らかになりました。
「500円で調理の必要がなく、たくさん食べられてお腹が膨らむものを」と考えて思い浮かんだのが、子どもでも気軽に立ち寄れるハンバーガーチェーン店のフライドポテトだったのでしょう。

