メディアが指摘できなかった森保監督の課題
ちなみに、身内であるJFAにも、森保監督をしのぐ成績を残した指導者などおらず、ある種のアンタッチャブルな存在になっていた。その状況も森保監督にとっては、結果的に、厳しい状況を招いた。
もしも日本代表が、森保監督の就任以前にもっと多くの功績を残していたら、森保監督にとって耳が痛くとも、血や肉となるような厳しいアドバイスを送れる人はいたはずだ。
他にも、「周囲にいさめる人がいたら……」と感じられる振る舞いは多々あった。森保監督がW杯を終えて帰国してすぐに行なわれた記者会見で、宮本恒靖会長が大会後の監督人事について質問を受けたときにほくそ笑むような表情を浮かべたり、先日の契約延長会見でも同様の表情を見せ、日本サッカー協会の価値をおとしめるようなアクションを起こしたのもそうだ。
また今大会中には、チュニジア戦前日の記者会見で、筆者が質問をする順番を当てられたタイミングで、大きなため息をついて見せたことで波紋を呼んだ(スポーツライターの木崎伸也が映像メディア「PIVOT」内で、別の理由で森保監督が苛立っていたという説を紹介しているが、いずれにしても世界中が注目する大会中の公式記者会見での振る舞いとしてはほめられたものではない)。
何より、キャプテンの遠藤航の離脱を発表したタイミングで、自身がメディアの前では説明せず、山本昌邦技術委員長に説明させたこともそうだ。山本委員長も「監督の決断」であると認めていたとおり、監督には決断をする権利がある。
しかし、オランダ戦前日のFIFAによって定められた記者会見まで沈黙を貫いたのは、遠藤への誠意を欠いていた。あの決断からオランダ戦当日まで、遠藤離脱後のチームマネージメントについて毎日、口を開いていた板倉滉の誠実な姿勢とは、あまりに対照的な監督の振る舞いだった。
結局、チームの内外で森保監督に「そうした行動は良くない」と説得したり、助言をする人が十分にいなかったのは、監督本人にとってプラスに働くことはなかった。
そして今大会の森保監督の決断でいえば、選手選考、戦術起用、試合中の采配などで多くの課題を露呈させた。本大会に至るまでに筆者を含めたメディアは、そうした課題にしっかり気づき、指摘しておくべきだった。その部分については、我々にも責任はある。
では、周囲から指摘されずに、“そのまま”になっていた課題とはどのようなものか。
それが如実に表れたのは、逆転負けを喫した最終のブラジル戦だった。前半に先制しながら、後半に相手が戦い方を変えてきたときに有効な手を打てず、逆転されてしまった。
実は、「相手が試合中に戦い方を変えてきたときに対応ができない」という森保監督への疑問は、2022年に行なわれたカタールW杯までは多く投げかけられていた。
しかし、あの大会の後は、森保監督をほめることがトレンドになり、そうした声はほとんど聞かれなくなった。トレンドが崩れたのは2024年、ダントツの優勝候補となって挑んだアジア杯にベスト8で敗退した後の1ヶ月間くらいだ。
ちなみにアジア杯で敗退を喫したイラン戦では、ロングボールを多用され、セカンドボールを拾えずジリ貧に。打つ術がないまま終了間際に失点、逆転負けを喫している。同大会ではその3試合前、イラクとの試合でもロングボール対策が課題となっていたが、有効な手を打てていなかった。
そもそも、森保監督が得意なのは、試合開始から上手くいかなかったときに、状況を大きく代えるような手を打つこと。
その手腕が輝いたのが、W杯優勝経験国を初めて破った4年前のカタールW杯のドイツ戦だった。昨年10月のブラジルとの親善試合も同様だ。
なお、そういうときに有効な手を打てる理由の一つが、代表選手たちの所属クラブのプレーを徹底的に見て、その組み合わせを代表戦で試すから。
そんな彼の仕事熱心さを象徴する有名なエピソードがある。森保監督は代表選手たちの所属チームでの映像を時間の許す限り見ることで有名だ。日本代表のコーチングスタッフの拠点は千葉県の幕張市にあるのだが、森保監督が作業に没頭するあまり、他のコーチ陣が先に帰りづらいという逸話まである。
森保監督は選手たちの所属チームでの動きをしっかり見ているため、頭の中でAという選手とBという選手を縦に並べたらこういう動きができて、Cという選手とDという選手を横に並べると、あのような動きが……といった形でイメージを膨らませられるという。
しかし、相手が打ってきた策をみて、試合中に対応するのは苦手とする。
ブラジル戦では、前半の日本は手堅い守備を武器に、非常に良い戦いを見せた。ただ、後半になって相手が戦術を変え、クロスを多用してくると、有効な対策を見出せないまま防戦一方になり、最後に逆転ゴールを許し、敗れてしまった。
結局、相手が状況を変えようと手を打ってくると、対抗策を見いだせないという傾向は4年以上前から度々、見られてきた森保監督の弱点だった。
しかし、前回のW杯からの4年間の大半では、「試合前に準備したプランが上手くいかなかったときに、状況を大きく代えるような手を打つ」手腕や、その得意な部分を伸ばすための取り組みを賞賛され続けてきた。
自戒を込めて繰り返すが、筆者も、その部分の解像度を上げ、適切な批判をすべきだった。その声にどれだけの効果があるかはわからないがーーあるいはほとんどないのかもしれないが――そうしたクリティカルな指摘ができなかったところにメディアとしての責任がある。そこは痛恨の極みだ。
メディアの仕事
ここから先、森保監督は超異例ともいえる3期目に突入する。しかも2027年1月開幕のアジアカップまでという、極めて異例の約半年間の“超短期”の契約となった。そして、その後は大岩監督が就任することまで決まっている。
なお、今後の代表監督の方針として、森保監督は、大岩監督と連携しながらも、任期中の選手選考や采配は最終的に自ら判断する考えを示した。実際、大岩監督の意向を色濃く反映し指揮をする可能性について問われたとき、森保監督はこう答えた。
「コミュニケーションは取りたいと思いますが、最終的には私の判断で決めたいと思っています(中略)。私の任期期間中は、コミュニケーションをしっかりと取りながら、最終的には私の判断で、チームマネージメントしていきたいなと思っています」
ともかく、この半年間の森保監督は、これまでの8年間とはまったく違う立場に置かれる。契約はアジアカップまでと区切られ、後任も決まっている。W杯を戦い抜いた監督ではなく、任期の終わりが見えている監督になる。
皮肉な話だが、そこにはひとつの可能性がある。この4年間、メディアを縛っていた構造そのものが、半年間だけ緩む。だとすれば、この期間こそ、外部の視点からの問いかけを取り戻せる時間になり得る。
代表監督を単に礼賛することも、盲目的に吊るし上げることも、メディアの仕事ではない。適切な距離から問いを投げ、答えを引き出し、記録として残す。そんな当たり前のことが、この4年間は十分にできなかった。
そして、その代償を最も大きく払わされたのは、ほかならぬ森保監督自身だったのではないか。
来年の3月、日本代表は大岩剛という新しい監督とともに2030年へ向かう。そのときにまた同じことを繰り返さないために、みんながメディアの役割を考え、声を上げていく必要がある。
7月27日、株式会社UDN SPORTSが森保監督とエージェント契約を結ぶことが発表された。日本の課題はヨーロッパの第一線で活躍する指導者が極端に少ないこと。このニュースは、同社のバックアップを受け、森保監督がヨーロッパ進出の準備を進めていくと理解すべきだろう。
このタイミングではさらに、マネージメント契約も同社と結んだ。メディアとの関係を含めて、様々なサポートを受けることになる。森保監督が、変わろうとしている準備を始めたことは最後に付け加えておく。
取材・文/ミムラユウスケ

