
雨清水タエ役を演じる北川景子さん(2018年12月、時事)
【画像】え…っ! 北川景子級? コチラが「松江藩随一の美女」と言われた「タエのモデル」人物の娘、実際の「小泉セツ」さんです
どんどん没落していった小泉家
2025年後期のNHK連続テレビ小説『ばけばけ』は、1890年に来日し『怪談』『知られぬ日本の面影』などの名作文学を残した小泉八雲さん(パトリック・ラフカディオ・ハーン)と、彼を支え数々の怪談を語った妻の小泉セツさんの生涯をモデルにした物語です。
第3週目では、主人公「松野トキ(演:高石あかり)」が、実は松野家の親戚「雨清水傳(演:堤真一)」と妻「タエ(演:北川景子)」の子供であることが明かされました。彼女は生まれたばかりのときに、子供のいない松野家に養子に出されていたのです。
14話では、病床の傳とタエがトキへの愛情について語っているのを、雨清水家の三男「三之丞(演:板垣李光人)」が聞いてしまい、複雑な表情を浮かべていました。
三之丞は本来家督を継ぐことはない三男という立場で、いままで傳から何も教わってきませんでした。しかし、長男「氏松(演:安田啓人)」が出奔し次男「武松」が死去したせいで、いきなり経営が傾いている機織り工場の社長代理を任されています。SNSでは不遇な彼に、同情する声も出ていました。
また、一部ではトキが婿の「銀次郎(演:寛一郎)」と雨清水家に戻って工場を継げばいいのではないか、という意見もあります。実際、雨清水家にはもう子供は三之丞しかいません。
実はトキのモデルにあたる小泉セツさんには、本来10人の兄弟がいました。しかし、さまざまな理由で、小泉家の家督を継げる人間がいなくなってしまったそうです。
※ここから先の記事では『ばけばけ』のネタバレにつながる史実の情報に触れています。
1868年2月4日生まれのセツさんは、生後7日で生家の小泉家から、子供のいなかった親戚の稲垣家に養子に出されました。母のタエさんは松江藩家老の塩見家の娘で、14歳で小泉家に嫁ぎ、夫の湊さんとの間に11人の子供を作っています。彼女が30歳のときに産んだセツさんは、6番目の子供でした。
小泉家の11人の子供のうち、5人は早くに亡くなったそうで、セツさんの手記やその他記録に出てくる兄弟は、セツさんの10歳年上の兄・氏太郎さん、8歳年上の姉・スエさん、2歳年上の兄・武松さん、2歳年下の弟・藤三郎さん、10歳年下の千代之助さんがいます。自分が養子だと知ったうえで育ったセツさんは、定期的に小泉家に通っていたものの、兄弟たちには親近感がわかず、遊ぶこともなかったそうです。
ちなみに、姉のスエさんは1892年に松江市郊外に住む旧士族の本多家の養女となり、末弟の千代之助さんは松江市美保関町近くの村に住む岩見家に養子に出されたとのことで、セツさんの伝記などにもほとんど登場しません。そのため、ドラマでは存在がカットされたと思われます。
父の湊さんは明治維新後、上級の武家だった小泉家の家禄の一部を奉還して、旧士族の子女たちの働き口となる機織り会社を立ち上げました。稲垣家が商売に失敗して借金を背負った後は、セツさんもこの会社で働いています。しかし、同業他社が増えたことで業績が不調となり、最終的に倒産してしまいました。
また、小泉家は1886年(明治19年)に、一気に不幸が訪れています。セツさんが前田為二さんという男性を稲垣家の婿に迎え、結婚した年のことです。
まず、同年1月に武松さんが19歳の若さで亡くなり、氏太郎さんは年末に恋仲だった町娘とともに家族を捨てて逃げてしまいました。その間に湊さんもリウマチを患って働けなくなり、残された男子の藤三郎さんが小泉家を背負う立場となります。
ただ、藤三郎さんは、そういった重責を担える人物ではなかったようです。彼は湊さんの方針でちゃんと学校にも通わせてもらっていたものの、ずる休みして野山に行き、鳥を捕まえて飼育することだけに夢中になっていたといいます。
一度、病床の湊さんが激昂して、ふがいない藤三郎さんを鞭で叩いたこともあったそうですが、彼の性格は直りませんでした。その後、リウマチが悪化した湊さんは、1887年5月30日に51歳で亡くなります。
また、同じ1887年には、セツさんの夫の為二さんが貧しすぎる稲垣家での暮らしを悲観して、出奔してしまいました。セツさんは1890年に彼と正式に離婚し、小泉家に復籍します。そして、1891年に松江で英語教師をしていたラフカディオ・ハーンさん(1896年に小泉八雲に改名)と結婚した彼女は、困窮していたチエさんたちに仕送りをして生活を支えました。
史実通りの展開なら、トキもいずれ戸籍上は雨清水家の人間に戻ると思われます。また、モデルに当たる藤三郎さんがかなりの問題人物だった三之丞が、今後どのような行動に出るのかも注目です。
※高石あかりさんの「高」は正式には「はしごだか」
参考書籍:『八雲の妻 小泉セツの生涯』(著:長谷川洋二/潮出版社)、『父小泉八雲』(著:小泉一雄/小山書店)
