先に気づいてしまった異変
半年前から彼女が楽しみにしていた花火大会でした。会場に着いた頃は、屋台を回る足取りも軽かったはずです。肩がぶつかるたびに顔をしかめていた自覚はあります。人混みが苦手なのは本当です。ただ、この日気になっていたのは自分のことではありませんでした。
屋台の明かりに照らされるたび、彼女の顔は来たときと別人のように白く見えます。「どうしたの」と聞かれて、「いや、なんでもない」と返したのは俺の方でした。確信のないまま騒がせたくなかったからです。
説明より先に体が動いた
周りは肩がぶつかるほどの人でした。何度も人波を目で追っていたのは、嫌気が差していたからではなく、彼女を連れて抜けられる道を探していたからです。ここで理由を伝えれば、彼女は大丈夫だと笑って残ろうとする。そう思った瞬間、説明より先に体が動きました。
「帰るぞ」返事を待たずに手首を引いて、人の少ない方へ抜けました。「人混みが嫌なら、最初から来なければよかったじゃない」背中にぶつかる声はもっともでした。それでも、あの場に立ち止まる方が怖かったのです。
