銀行はテクノロジーカンパニーへ ―― BaaSとAIがつくる次の銀行体験
―― まさにお話に出た「テクノロジーカンパニー」への進化の第一歩ですね。この「銀行機能のサービス化」の先に、宮本さんはどのような事業の広がりを見ていますか?
便利な世界を追求した結果、銀行は「プラットフォーマー」になる
APIを起点としたBaaSの広がりは、ますます加速していくでしょう。それは、私たちが当初から目指していた「みんなの銀行のアプリさえ持っていれば、どこにでもつながる」という世界観に近づいていくことを意味します。
スマホにお金を入れておけば、リアルでもオンラインでも、決済も資産運用も、あらゆる場面でフリクションレスに行動できる。お金のことで時間を取られることのない世界です。
そうなると、今度はサービスを提供する事業者側にもみんなの銀行の口座が必要になり、B2Bの事業性サービスへと広がっていく。個人も事業者も、みんなの銀行の口座でつながることで、お金の管理や利用が楽になる。
それはつまり、銀行が「プラットフォーマー」になるということです。プラットフォーマーになりたかったわけではなく、便利な世界を追求した結果、いつの間にかそうなっていた、というのが正しいかもしれません。
―― テクノロジーという点では、「AI」の活用も欠かせません。これから「銀行×AI」によって、私たちのお客様の体験はどのように変わっていくのでしょうか。宮本さんが思い描く「AIが当たり前にある未来の銀行」の姿を教えてください。
決済も運用も「AIにおまかせ」の時代へ。未来の銀行は一人ひとりのパートナー
AIの進化は凄まじく、私が「まだ早いな」と感じてから「もう使えるな」と思うまで1年しかかかりませんでした。おそらく、あと3年もすれば世界は大きく変わるでしょう。顧客体験という観点では、みんなの銀行のプロダクト自体が、一人ひとりの資産形成をサポートする「パートナー」のような存在になると思います。
その人に合った資産形成の方法を提案してくれたり、融資も返済をサポートしながら返せる分だけを即座に貸してくれたり。チャットボットは文脈を読み取って的確に即時回答してくれるので、もう待たされたりイライラしたりすることもなくなる。究極的には、決済も運用も、お金を借りることも返すことも、すべて「AIにおまかせ」という世界が来ると思っています。
もちろん、今はまず開発プロセスへのAI導入から始めています。コード生成AIやレビューAIなどを活用して開発を効率化することで、AIがもたらす急激な社会変容のスピードに、私たち自身が追い付いていける体制を整えたいですね。
挑戦する集団の作り方 ―― なぜ「銀行員とエンジニア」はワンチームになれたのか?
―― ここからは、そうした挑戦を支える「組織」について伺います。宮本さんは「みんなの銀行」と、開発を担う「ゼロバンク・デザインファクトリー」の2社のCIOを兼務されていますが、この体制だからこそ生まれる面白さ、あるいは難しさがあれば教えてください。
水と油ではなく水彩絵の具のように。分社化は「責務」と「スピード」を両立させる戦略
本音を言えば、全員を一つの会社にまとめたい気持ちはあります。ただ、設立当初、従来の銀行の常識を覆すための戦略的な狙いがあって分社化している経緯があります。
これは「銀行としての責務(銀行法に準拠した厳格なガバナンスとリスク管理)」と「テクノロジー企業としてのスピード(エンジニアが最高のパフォーマンスを発揮できる自由な環境構築)」を両立させ、優秀な人材を集め、将来の新たなビジネス展開まで見据えたものであり、単なる組織の切り分けではありません。
一方で、私や頭取の永吉さんをはじめ、経営陣は2社を別の会社だとは思っていません。完全に一体で運営しています。
ゼロバンク・デザインファクトリーのエンジニアたちも、自分たちのことを「みんなの銀行のプロダクトをつくる当事者」だと思ってくれていますし、ゼロバンクという名前に誇りを持ってくれています。だからこそ、私たちが対外的に発信する際は、必ず両社のロゴを並べるようにしているんです。
難しさは時折ありますが、日常ではほとんど感じません。むしろ、カルチャーの異なる銀行員とエンジニアが隣り合って座り、プロダクトについて建設的な議論をしながら、水と油ではなく、水彩絵の具のように溶けて混ざり合っていく。そんな組織でありたいと思っています。
―― お話にあった「水彩絵の具のように溶けて混ざり合う」組織、素敵ですね。カルチャーの全く異なる「銀行員」と「エンジニア」を、どのようにして一つのチームに融合させてきたのでしょうか。組織をつくり上げる上で、特に意識してきたことがあれば教えてください。
銀行員かエンジニアか、ではない。判断基準は「会社の未来にとっての最適解」
何よりもまず「フラットな目線でお互いの意見に耳を傾け、自分の頭で考える」という姿勢を大切にするよう、チーム全体で心がけてきました。銀行員が正しいわけでも、エンジニアが正しいわけでもない。双方の意見に正誤はありません。それぞれの立場からどちらも正しいのです。
大切なのは、議論が平行線になった時も、「みんなの銀行にとって何が最善か、どちらがより良い未来につながるか」という共通のゴールに立ち返ること、一点だけです。
私自身、そこで自分の立場を意識しすぎるわけにはいきません。エンジニアの組織長だからといってエンジニア寄りの判断をすると、私の意見が会社視点で公平なものではないと印象付けられ、その結果誰も相談してくれなくなるでしょう。結果、エンジニアと非エンジニアの間に軋轢が生じ、融合はおろか会社として良い方向にいくことはないと思います。
ポジションに関係なく、常に会社全体にとっての最適解は何かを一緒に考える。その一つひとつの積み重ねが、少しずつ今の組織文化につながってきたのかな、と感じています。
―― 多様なメンバーが自律的に動く、新しい組織を率いる上で、ご自身のリーダーシップスタイルをどのように捉えていますか? ちなみに、周りのメンバーからはどんなリーダーだと言われることが多いか、こっそり教えていただけますか?(笑)
リーダーの役割は「ボトムアップ」を支えるサポーター
周りからどう見られているかは、僕も聞きたいくらいです(笑)。ネガティブなフィードバックこそ自己成長の源泉なので、いつでも素直に聞きたいタイプなんですけどね。
リーダーシップのスタイルは、昔と今で大きく変わりました。昔は何でも自分で把握していないと気が済まないタイプでしたが、組織が大きくなるにつれてそれは不可能だと悟りました。
Googleと一緒に仕事をした経験も大きいですね。世界中の多様な人たちが、自社のプロダクトに愛着を持ってボトムアップで議論し、発展させていく姿を見て、自分もこういう会社を目指したいと強く思いました。
一人の優秀な頭脳より、たくさんの脳で考えた方が、会社は何万倍も強くなる。だから今は、要所は押さえつつも、基本的にはメンバーに任せ、一人ひとりが自ら考えて行動する「ボトムアップの組織」を重視しています。
私から指示するのではなく、皆で議論し、全体に共有してもらう。私も皆さんと同じ立場でその話を聞き、疑問があれば忌憚なく質問する。そうやって、メンバーが自律的に考えて成果を出していくのを横で見ながら、方向性がズレそうになったら口を出す。自ら動いて情報を集め、サポートに回る。それが今の私のスタイルです。
―― 最後に少しプライベートな質問です。日本初の挑戦の連続で、プレッシャーも大きい毎日かと思いますが、仕事から離れた時間では、どのようにリフレッシュされているのでしょうか。趣味や最近ハマっていることなど、宮本さんの意外な一面を教えてください。
トップが休む姿を見せるのも仕事のうち。オンとオフを切り替えるリフレッシュ術
東京に住んでいた頃は、週末にジョギングをしたり、車中泊で日本中をドライブしながら昆虫採集をしたり……他にもサーフィンをしたり、柔道をしたりしていました。仕事のことを考える余裕が一切ない状況に自分を追い込むことで、強制的に脳を切り替えていたんです。
福岡に移住してからは、暮らしのすぐそばに自然があるので、キャンプや温泉に行ったり、畑仕事や草むしりをしたりすることでリフレッシュしていますね。
働き方も意識的に変えました。銀行業の営業免許取得(2020年12月 22日)までは土日もなく働いていましたが、組織が大きくなり、人に任せるカルチャー作りを始めてからは、自分自身もきちんと休むように心がけています。
トップが忙しそうにしていると、メンバーは休みを取りづらいし、相談もしづらいですよね。私が計画的に休み、プライベートを大事にする姿を見せることで、みんなが働きやすい環境を感じてくれたらいい。立場が上がれば上がるほど、そういう環境を自ら作っていかないと、優秀な人たちは離れていってしまうと思っています。
インタビュー後編に続く
※この記事はオウンドメディア『みんなの銀行 公式note』からの転載です。
(執筆者: みんなの銀行)
