見たことのない一皿
終盤、彼女がクーラーボックスから包みを取り出しました。切り分けられていくのは、塊から火を入れたローストビーフ。皿が回るたびに歓声がわき、部長まで席を立ちました。
「この肉、どこの?」
「実家で、朝から仕込んできました」
駅前の精肉店の名前を、部長は知っている様子でした。さらに同僚の一言が続きました。
「準備も買い出しも、全部彼女がやってくれたんですよ」
拍手が起きたその中心に、幹事の私はいませんでした。隣の先輩と目を見合わせて、手にしていた紙コップを卓に置きました。
そして...
片付けの間、彼女への謝り方をずっと探していました。解散の間際にようやく出てきたのは、謝罪になりきらない一言です。
「次は、私も仕込みから入れて」
彼女は少し間を置いて、首を縦に振りました。帰りの車で、行きには当然のように座っていた助手席を、彼女に譲りました。あの拍手を、今度は準備する側で聞いてみたいと思っています。
(30代女性・事務職)
本記事は、読者アンケートに寄せられた実体験をもとにした本人視点の記事を参考に、相手側の心情を想定して制作しています。実際の相手本人への取材ではなく、編集部による解釈を含みます。
(ハウコレ編集部)
